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「ーーー…青木先生知ってました?
津田先生の奥さんって21歳年下らしいっすよ!
……な!?…葛西!!!」
要は間が持たないと思ったのか、話を振る相手を、俺に突然切り替える。
「……!…あぁ…僕もびっくりで…
……若くて綺麗な奥さんで羨ましいなって…
さっき紺田と話してたんです」
突然話を降ってきた要を憎らしく思いながらも、俺はそう青木先生に告げた。
青木先生は本棚に並んだ本をパラパラと捲り何かを探しているのか、俺と目を合わせずに口を開いた。
「そんな歳離れてるなんてーーー気持ち悪いな」
予想外の言葉に俺と要は黙った。
青木先生は相変わらず、手元の本に視線を落としていた。
「津田さんの考えも…その相手の考えもーーー
…俺には理解できないね。
そもそも女なんて居ても…毎日連絡してとか、どこどこに出掛けようとか…そんな事ばかり言ってくるーーー…
女なんていてもさ、研究の邪魔なんだよ。
足枷にしかならないね」
青木先生の言葉に、空気がピンと張り詰める。
流石の要も軽口を叩けず、青木先生を見たまま「なるほど…」と適当な相槌を打ち、頷くだけになっている。
青木先生は棚から取り出した一冊の本をパタンと閉じて手に持った。
「ーーーー早く帰って勉強しろよ。
紺田…レポート提出してないのーーー
…もうお前だけだからな」
「………うっす……」
青木先生はそのまま教室から出て行った。
いつも白衣を着ている青木先生は、授業を受け持つ事意外はほとんど研究室や実験室にこもっているらしいと聞く。
「ーーーーー青木って昔凄まじく酷い女に捨てられた事でもあんのかな…」
要は青木先生が階段を降りていく足音をしっかりと確認してからそう呟いた。
「ーーー女嫌い感すごくね…?
絶対結婚しないわ…あの人……
…葛西ああいうのが憧れなワケ…?」
要は言いながらもリュックサックを背負い、青木先生に言われた様に帰る準備を始める。
おそらく、要は青木先生から言われたレポートを提出してない事を、今更まずいと思い始めたのだろう。
「キャリアには憧れるよ。
…それに…すごい研究熱心だし」
俺も要に合わせて、リュックを背負った。
明日は朝の7時からバイトだ。
「あんまり一個の事ばっか集中すると、他の何か失うぞ」
「なんだよそれ」
俺は何気なく要の顔を見た。
「俺の持論」
あっさりと答えた要を、俺は適当だなと思った。
「ーーー帰るか…
…レポート…仕上げないといけないし…」
要と俺はそのまま教室を出て、大学から1番近い駅まで歩き、それぞれの家の方へ向かう電車に乗り込み別れた。
青木先生はまだ、大学にいるんだろうか。
湯川さんと津田先生はーーーそろそろ夕飯の時間だろうかーーーー
俺はそんな事を考えて、なんとなく暗くなった空を見上げた。
そろそろーーーー雪が降る頃だなと思った。
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