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「コレーーーなんだか分かります?」
刑事さんーーー澤田さんは私と紺田君の前に透明な袋をかざして見せた。
視力があまり良くない紺田君は顔を近づけて、その袋を見つめ、私は顔の位置は変えずに、黙ってその袋の中を確認する。
袋の中には、直径僅か1ミリほどのキラキラ光るものが収められていた。
「ーーーなんすか?ーーーコレ」
紺田君は先程の反抗的な態度を崩さずに澤田さんに尋ねた。
それが少し可愛く、なんだか愛おしい。
私の前でこうやって悪態をつく紺田君は、なんだか新鮮だった。
「ダイヤモンドです」
澤田さんは答えると、私に視線を移した。
「薬品庫に落ちていました。
このダイヤモンドは湯川さんーーー貴女がつけている結婚指輪のものだと分かりました。
ーーーー貴女はあの日…津田先生と薬品庫にいたんです。
ーーーこのダイヤモンドはそれを証明してくれました」
私はゆっくりと、自分の左手の薬指に視線を落とした。
あの人が買ってくれた、細かいダイヤモンドのラインが特徴的な指輪。
ダイヤモンドが描く曲線は、縄の様にも見える。
このダイヤモンドがあの人が最後にーーー私に掛けた呪いというわけかーーーーー。
「オーダーメイドの指輪だそうですね」
そんな事まで調べたのかと驚きながら、私は澤田さんの顔を真っ直ぐ見た。
澤田さんとカチリと目が合う。
「貴女はあの日ーーー津田先生と2人で昼食を取った後、薬品庫に行った…
そこで貴女はーーー津田先生となんらかの理由で口論になりーーー先生を殺害したんでしょう?
ーーーー先生を殺害して返り血を浴びた貴女は…たまたま鍵の空いていた雨谷明さんのロッカーから白衣を取り出し羽織ったーーーー
返り血を隠す為と、この大学の中をうろついて怪しまれない様にね。
ーーーーそして貴女はーーー誰かの力を借りて薬品庫にあるキャスター付きのゴミ入れに津田先生を入れた。
そしてそのまま何食わぬ顔でそのキャスターを押して裏口から駐車場に行った。
津田先生のカードキーを使えば大学の中を通るのには困らない。車も津田先生のを使えば、なんの問題もなく大学に出入りできる。
それで貴女は津田先生本人の車に遺体を入れーーー雑木林に捨てたーーーー
ーーーーー違いますか?」
私は返事をせず、目を伏せた。
その通りだった。
1つ、訂正したい事を除けば。
「刑事さん」
私は澤田さんの目を見つめた。
私はすうと息を吸った。
お腹の子もーーーーまるで私が逮捕されるのを望んでいるのかの様に、不思議と悪阻は落ち着いている。
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