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「ミオーーーコイツすごいヤツなんだよ。
ーーー成績ずっとトップだし、今1番将来有望な男」
俺は伊賀のこの発言に、一瞬眉間に皺を寄せそうになる。
でもきっと俺のかけてる黒縁メガネーーーこういう時の為にかけている伊達メガネが、俺の表情をカバーしてくれてるはずだ。
コイツって言った…!
俺そんなにお前と仲良くないのに…!
「えぇ…!…すごい…ですね…!
ーーーー勉強…お好きなんですか…?」
女性は俺を見ようとしたのか、伊賀の大きな背中の影から顔をぴょこりと出した。
突然敬語を使い始めた女性に、俺は警戒してしまう。
勉強ーーー…好きですよ…?
ーーー1人でいるのが好きだから、友達や恋人と過ごすより、勉強している方が全然楽しーーー
「ーーーーーー?
ーーーー…好きですか?…勉強?」
目に映る景色が、この瞬間静止して見える。
「ーーーー?ーーー青木?」
伊賀に名前を呼ばれた俺は我に帰り、不自然だとは思いつつも、顔を慌てて伊賀と彼女の方から反対側に向けてしまう。
一目惚れとは、こういうのを言うのだと。
俺はこの時初めて思い知る。
「ーーーー勉強は……楽しいです……」
それしか言えずに、俺は彼女と伊賀から顔を逸らしたまま、食堂のおばちゃんの方に向き直る。
「おまたせ!!!何にします?」
「カレーライス、お願いします」
カレーライス???……
………あ゛!!!……間違えた………
「カレーライスね、普通盛りね?」
「……はい……」
白い服着てるから、チキン南蛮って思ってたのに!
自分の馬鹿!!!馬鹿野郎!!!
鳴り止まない心臓の鼓動が、何を意味するかは鈍感な自分にも分かった。
俺はあまりにも美しい彼女に、一瞬で心を奪われてしまった。そういう事だ。
そして食堂でメニューの注文をし間違えるという、人生で初めての失態をした。
直ぐに訂正すればよかったのだろうけど、横に伊賀と彼女がいる事を気にするとそれが出来ず、俺はお盆に乗せられたカレーライスを黙って運び、いつも座ってる窓際の席に座った。
こんなの信じられないーーーー…
自分がーーーあんなにバカにしてた一目惚れをするなんてーーーー…
「美緒、ここ座ろ」
俺の席から2、3列離れた席に、伊賀はその女性ーーー美緒さんを呼び寄せた。
彼女の為に椅子を引いて、彼女を自分の前に座らせる伊賀を見て、随分手慣れてるなとヤキモキしてしまう。
俺なら絶対ああやって出来ない。
きっとどこに座ればいいかも分からずーーー食堂を右往左往してしまう。
「ありがと。
ーーー翔也相変わらず、すごい量だね」
翔也!?!?!?
俺は女性が伊賀を「翔也」と名前で呼ぶのに衝撃を受け、右手に持っていたスプーンを落っことしそうになる。
入学したばかりってさっき話してたからーーー年下なのに…なんでそんな親しげなんだ!?
え……もしかして……元カノとか……?
ーーー……高校一緒とか同じ部活だったとしても……先輩とか、さんとかつけるじゃん…!!!
「大盛り無料だから、どうせならなーと思ってさ。
美緒はーーー…相変わらずクリーム系なのな」
伊賀にお盆の上を見られた彼女は「そう、相変わらず好き」と微笑んだ。
その上目遣いのような微笑みを向けられてる伊賀を、羨ましく思ってしまう自分。
俺も彼女のお盆の上に視線を送り、メニューをこっそりと確認する。
ーーーー…本当だ…カルボナーラに、クラムチャウダー……なんだか…時期はずれな気もする……
カルシウム、取りすぎなんじゃーーーー…
そんな彼女の食べる物から、ちょっとした表情、はてまた伊賀へのちょっとしたボディタッチまで気にしてしまう俺は、カレーライスを食べるのに一層の集中力が必要とされた。
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