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「……青木さん……!」 それは美緒と初めて出会ってから、3週間程経った頃の出来事だった。 俺は自分を呼んだのが、あの時頭に入れた美緒の声だと気づき、慌てて振り返った。 俺の記憶に間違いは無く、あの時は伊賀の横にいた美緒が、俺の真後ろに立っていた。 一息吐こうと大学内にあるカフェでコーヒーを注文したばかりの俺は、カップを持ったまま慌てた。 「お久しぶりです。 休憩ですかーーー? ーーーもう、帰っちゃいますかーーー?」 聞かれ、自分の学部に戻って研究室で資料をまとめようとしていた俺は咄嗟に嘘をつく。 「いえーーー…少し一息吐こうと思って…」 美緒は俺のこの言葉を聞くと、少しだけ微笑んで俺を見上げた。 美緒は黒い髪を、頭の下の方で一本に括っている。 「私もです。 ーーーーよかったら少しだけ、一緒に休憩しませんか?」 俺は直ぐ様、二つ返事で頷いた。 あっさりと返事をしたくせに、心の中はどうしようもなく緊張していて、コーヒーカップを掴む掌が汗ばむ。 「よかった。私も直ぐ買ってきますね」 美緒はそう告げてからミルクココアを注文して来ると、直ぐに俺の前のテーブルに腰掛けた。 心臓が、ドキドキと速くなっている。 自分の自律神経が乱れていると、自覚する。 「ーーーあの後、翔也さんから聞きました。 青木さんは入学してから、ずっと今まで成績はトップだって」 翔也さん!!! 俺は美緒の話なんて全く頭に入ってこず、美緒が伊賀を翔也さんと呼んでいることにショックを受ける。 あの時も「翔也」って呼び捨てだった…! 何でそんな親しいんだ! 2つも先輩なのに!!! 「ーーーーすごいなぁって……… ーーーーどうしましたか……?」 「え……あ……いや…… ーーー……翔也……って」 「翔也??? ………翔也が……どうかしましたか……?」 美緒の話の9割から8割を聞き逃して俺は澪に話を振られ、ついその事について尋ねてしまう。 「ーーーー伊賀の事「翔也」って呼ぶからさ… ーーーー付き合ってるの?…アイツとーーー…」 「ーーーーーーー…」 美緒は不思議そうな顔をして俺を見つめた。 やってしまった…!!! 多分勉強の話をしてたのに!!! 突拍子も無く、突然「伊賀と付き合ってるんですか?」なんて聞いてしまった!!! 絶対変な奴だ!自分! 俺はさっきの自分の発言を猛烈に後悔し、不可能とは承知で時間を巻き戻したくなる。 「ーーーー付き合ってないです。 ーーー翔也とはーーー母親同士が同じ職場に勤めてて家も近くてーーーー 小さい頃からずっと一緒で…昔から翔也ってそう呼んでたので、今もつい、そのまま」 美緒は右側の髪の毛を耳にかけて、小さく笑った。 「幼馴染なんです、私と翔也。 ーーーー翔也には彼女もいますし、付き合ってないですよ」 頭が追いついていない俺に気づいたかの様に、美緒は更にそう付け足して微笑む。 「…そうなんだ……ごめんね、変な事聞いて…」
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