178人が本棚に入れています
本棚に追加
「ーーーーー眠い……」
俺は目の前で鳴っているアラームを止めた。
昨日は早めにベットに入り、今日は早起きしてバイトへと向かわなければならない。
俺や要が働いているカフェ『エッジハウス』は朝の7時から営業しており、通勤客で平日でもそれなりに混んでいる。
要はレポートが仕上がらなかったのかバイトを休んでしまい、俺は皿洗いを始めた直後なのに電話を取る羽目になった。
俺以外に出れる人はおらず、湯川さんもサラリーマンのおじさんの長話に捕まっている。
「お電話ありがとうございます。
エッジハウスです」
布巾で拭いたのに、まだ水気を取りきれない手で電話を取り、俺は話しながらもう一度自分の手をハンカチで拭いた。
「ーーーーすみません…京帝警察署のものですが、湯川さんはいらっしゃいますか?」
「ーーーー湯川………ですか…?」
男性の声でそう問われ、俺は思わず湯川さんの名前を繰り返す。
「ーーーーはい。
ーーー湯川さんに、お話がありましてーーー」
男性は俺が自分を怪しんでいる事が分かったのか、要件を手短に伝えた。
「あ…かしこまりました……
……少々お待ちください……」
俺はそう告げると保留ボタンを押し、一旦受話器を置いた。
そして長話から解放されたばかりの湯川さんに声をかけにいく。
「湯川さん!」
「ーーーん?」
「京帝警察署からお電話が入ってます…
ーーーお話がある…って言ってるんですけどーーーーー」
湯川さんは俺の言葉に、驚いたようにというよりは、何か悪いことでも想像したかのように表情を固くした。
「ーーーーー…わかった…
……今……出るね…!」
湯川さんはそのまま電話を手に取り、休憩室へと入って行った。
警察から電話なんて…俺までなんだか落ち着かなくなってしまう。
「葛西君!ちょっと!」
「あ、はい!!」
先輩の山本さんに呼ばれ、俺は湯川さんの代わりにオーダーを取りに行く。
オーダーを取り終えたかと思うと会計に呼ばれ、会計を終えたかと思うと、お客様が帰ったテーブルの皿を取りに行く。
通勤ラッシュ時のこの時間はバタバタと過ぎていく…これからバイトを終えたら直ぐに大学に行かねばいけないというのも過酷な話だ。
「葛西君…!」
ふと、新しい布巾に手を伸ばした時、湯川さんに声をかけられた。
俺はその瞬間、湯川さんから目を離せなくなる。
顔色が、明らかに悪い。
いつも白くてもピンクがかった頬に、今は色が無かった。
「ごめんね…!
ーーー急だけど…帰らないといけなくて……
お疲れ様…!
……学校…頑張ってね……!」
「あ……はい……ありがとうございます…」
何か気の利いた事を言うべきかーーーーそう思ったものの言葉が直ぐに出ては来ず、俺はたったその一言で湯川さんを見送った。
警察って…一体何があったのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!