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「ーーー伊賀が階段から落ちて…最初に見つけたの俺なんだーーーー ーーーーだからーーー…そのーーーー… ーーーー大丈夫だよ…そんな……痛そうとか…苦しそうって感じじゃないからーーーー それにーーー伊賀のお母さんはーーー… 湯川に対してそんな事思わないと思うよーーーー ………こればっかりは人の気持ちだから約束は出来ないけどーーーー… ーーー…幼馴染でずっと一緒に居た湯川にーーー…最後に息子にあって欲しいって…… ーーーー…思ってくれると思う」 私は力無く津田先生を見つめた。 この人の声にはーーー言葉にはーーー不思議な説得力があった。 階段から転落した翔也を、一番最初に見つけた先生はきっとーーー救護とかもしてくれたのかもしれないーーーー まだ格好の整えられていないーーー転落したばかりの翔也を先生は見ているはずでーーー本当は自分だって辛いはずなのにーーーーちゃんとこうやって、私の前にしっかりと立って、私を励ましてくれている。 津田先はもう一度私を見返して「行くか?」と私の顔を覗き込んだ。 私は首を縦に小さく振る。 津田先生の少し後ろを歩く形で翔也の家の門を潜り、私は結果として、亡骸となった翔也と対面することが出来た。 翔也の顔は、まるで眠っているかのように綺麗だった。 階段から転落した際、後頭部を強打した事が致命傷となった為か、顔には傷一つ付いていなかった。 私は津田先生の言った通りに、翔也のお母さんに「翔也に会ってやって頂戴」と言われて安堵すると共にーーーー さっきの恐怖心が消え、真正面から、亡くなった翔也と対面する事が出来た。 先に翔也の家に入っていた母に津田先生を紹介すると母は深く頭を下げ「こんな素敵な先生が来てくれて、翔也君は幸せね」と涙ぐんだ。 私達は翔也と対面して、少しだけ翔也の家族と話をして帰ることになった。 翔也のお母さんの淳子さんを含め、翔也の家族は翔也の突然の死に頭も体もついて行ってはおらず、とても長居できる状態ではなかったからだ。 お通夜ーーーという名前の通りに…翔也の死を悼んで夜中話をできるような状態では、まるでなかった。 翔也の家に飾られている、小さい頃の翔也の母の日の似顔絵や、読書感想文コンクール、空手の大会で優勝した時の賞状やトロフィー…ーーーー 翔也は何か賞を取ったりすると、小さい頃から真っ先に淳子さんに報告しに行っていた。 淳子さんを喜ばせる為にーーー翔也はなんでも努力して、頑張ってきたんだーーーー そこまで考えて、私はつい目を逸らす。 ダメだーーー翔也の事をーーー淳子さんの気持ちを考えるとーーー辛すぎるーーー 「湯川」 帰り際、再び津田先生に声をかけられた私は、涙を拭ったハンカチを手に持ったまま振り返った。 「ーーーしんどいと思うけど……毎日ちゃんと寝てちゃんと食べてーーー… ……無理するなよーーー学校も……あまりしんどかったら休んでもいいんだからな」 私は頭を下げて「ありがとうございます」と頭を下げた。 津田先生は、優しい。 翔也と話している時から良い人だとは思っていたけど…本当に津田先生は優しくて紳士的だった。 今日もこうやって声をかけてくれて、翔也の家に私がいる間中ーーーいつも気を遣ってくれる。 亡くなった翔也を見る時もーーーー怯えている私と母の為に、先生はスッと前に出て先に翔也と対面してくれた。
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