177人が本棚に入れています
本棚に追加
/97ページ
「美緒ちゃん!!!」
津田先生が去ろうと私に背を向けた瞬間、私は後ろから翔也のお母さんーーー淳子さんに名前を呼ばれた。
振り返ると、手の届く距離にやつれた様子の淳子さんが立っている。
淳子さんは私の前まで来ると、両手で持っていたものを私の前に差し出した。
「翔也のカバンの中に入ってたのーーーコレ…美緒ちゃんの携帯よね…?」
私は驚いて携帯電話を受け取ると、それが確実に自分のものであるかどうか確認した。
間違いないーーーーケースも待受もーーー全て自分のものだーーーー。
もしかしてあの日…一緒にお昼を食べた時に私は携帯を忘れてしまってーーー翔也が渡そうと持っててくれてーーーー
それで渡せないまま亡くなってしまったのかーーーーー
そこまで考えてまた、私の目に涙が滲み始める。
「ーーーーありがとうございます…。
無くしたと思って…探してたんですけど……
翔也が先に見つけてーーー…私に渡そうとして持っててくれたんだと思います……」
私が携帯を受け取ると、淳子さんは「渡せてよかったわ」と笑顔を作ってくれた。
私は再びお礼を言って頭を下げ、母と一緒に翔也の家を後にした。
2日ぶりに対面した携帯には、ちなみからの着信が3件、母からの着信は10件ーーーー。
いつもの事だけど、澪からの連絡は来ていない。
澪は研究に没頭するといつもこうだ。
でもーーー流石に…翔也が亡くなった事は澪も知ってるんじゃ無いだろうかーーーー
まして研究発表会の前日に翔也が亡くなった事をーーーまるっきり知らないはずは無いはずだ。
そこまで考えて、今日がその、研究発表会であった事を思い出す。
ーーーー津田先生はーーー…発表会の後で忙しいにも関わらず翔也の為に来てくれたのかーーーーー…
私は帰りのタクシーの中で、ぼんやりと津田先生と澪の事を考えた。
仕方ない事なんだろうか。
澪が研究となれば、周りが見えなくなってしまう事。
普段連絡が遅いとか、滞るのはともかくーーー
同級生の翔也の死にもーーー関心を示さず、私に何も連絡してこない事ーーーー
津田先生は忙しくてもこうやって翔也の家に来てくれて、私の事も気遣ってくれるのに。
翔也だってーーーー忙しい時でも連絡すれば必ず連絡を返してくれていたのにーーー
そうやって考えてから、私は思わずタクシーの中で蚊ほど小さく首を横に振った。
澪は澪なんだからーーーー津田先生や翔也と比べたりしてもダメだーーーー
澪が例えそうでもーーー私を好きでいてくれる事に変わりはないはずだーーーー
そうだーーーーー
研究発表会が終わったら少しは時間ができるはずだから…今日帰ったら澪に連絡してみよう。
私は家に帰って少量の食事を摂り、お風呂に入ってからすぐに自分の部屋に行き、澪に電話をかけた。
最初のコメントを投稿しよう!