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「ーーーーあ、もしもし…」 珍しく、電話を鳴らしてそんなに待たずして、澪の雑音に消されてしまうトーンの声が聞こえた事に驚く。 いつもなら10回とは言わないけどーーーしばらく電話を鳴らさないと出てくれないから。 「ーーーー発表会…お疲れ様…… ーーーどうだった?…上手くいった?」 私はとりあえず、そう尋ねる。 いきなり翔也が亡くなった事を伝えるのはーーー何だか抵抗があった。 「うん。上手くいったよ。 ーーーー美緒のおかげで。 ごめんーーー…中々連絡できなくて」 澪の声は少し掠れていた。 翔也が疲れてーーー階段から足を踏み外す程だからーーー澪も相当、疲れているのかもしれないーーーー 「よかった…… あのさーーーー…澪……… ーーーー翔也が…… ーーーー…翔也が亡くなったの、知ってる…?」 「ーーーーーー」 電話の奥で、澪が息を飲む気配がした。 もしかしてーーーー澪は知らなかったんだろうかーーーー 翔也がーーーー亡くなった事ーーーー… 「ーーー知ってるよ…… 階段から……………落ちたんだ……って…… ーーー津田先生から聞いた…」 澪は聞き取りづらい声を更に聞き取りづらくして答えた。 澪も同級生を亡くした事が少なからず辛いのか、声はなんだか苦しそうで、ぎこちない。 「そっかーーー突然で…びっくりだよね…… ーーーー澪、明後日のお葬式、来る? ーーーー土曜日だから…澪も来れるかなと思ったんだけどーーーー」 「ごめんーーー津田先生にも話したんだけど…俺その日ダメなんだーーー… 実家でーーーーじいちゃんの七回忌あって…」 被せるように断られ、私は言いかけた言葉を引っ込めた。 七回忌ーーー確かに節目だけど……翔也のお葬式に少し来てくれてはダメなんだろうか… 「そっかーーー…澪来てくれたら…翔也も嬉しいかなと思ったんだけど…… じゃあーーー…しょうがないね…!」 私は本音を飲み込んで、澪に嘘を話す。 もう何度、こうしてるだろう。 会いたいのに「大丈夫」って言って。 寂しいのに「連絡いつでもいい」って言って。 「ーーーーうん…本当にごめん…… …ごめん…まだ研究室居るから…またーーー」 「あ、うん、電話ありがと…!…またね!」 私はそう言って、電話を切る。 電話を切ってから、なんとも言えない、虚しい気持ちになる。 澪の事は、大好きだ。 自分でも分からないくらいに、出会った瞬間に、一瞬で好きになったのが、澪だ。 LINEの返信が遅くても、中々会えなくても、デート中にわけのわからない理系の話をされてもーーーー何度喧嘩しても、全然嫌いになる事が出来ず、大好きなのが澪だった。 以前の私ならーーー別の相手とこうだったのなら、きっともうーーーとっくの昔に別れているであろうにーーーー 私は澪を嫌いになれず、愛想を尽かす事も出来ず、研究に没頭して私を蔑ろにする澪をいつも許してしまう。
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