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翔也の葬儀を土曜日に終え、私は月曜日からなんとか大学に登校した。
葬儀にはちなみも来てくれて、涙もろいちなみは翔也のお父さんが弔辞を読んでいる間、最初から最期までずっと泣いていた。
「湯川」
大学の校門に差し掛かった時、後ろから声をかけられた。
私は振り返る前に、声の主が誰であるか察しがついていた。
「津田先生」
私は振り返ってから「土曜日はありがとうございました」と、先生が翔也のお葬式に来てくれたことにお礼を言った。
「体調大丈夫?ーーー痩せたんじゃない?」
冗談とも、本心とも取れる言い方をされた私は困ったように笑った。
「ーーーそんな急に痩せないですよ…!
ーーーでも…まだ全然……悲しいですけど…」
私はそう答えてから、津田先生と並んで大学の入口まで向かう。
そう…まだ、全然悲しい。
だから工学部の棟の外階段には、しばらく近寄れないと思った。
「ーーーもう少し時間かかるよな…
ーーー湯川、今日の夕方、時間ある?」
津田先生の問いに、私は思わず足を止めそうになる。
「夕方、ですか?」
今日はバイトが入ってないからーーー空いてはいるけどーーーー
「あぁ…ーーーー伊賀の件で、湯川に話があって……
大学だと話しづらいから…どっか行って少し話さないかと思って」
私の頭の中に、澪の顔が浮かんだ。
澪は口には出さないけど、何度か私がクラスの男の子と話しているのを見た時は、何だか嫌そうな顔をして遠ざかっていった。
揶揄われるのが嫌という理由で付き合っている事を内緒にしているのに、ちなみの彼とちなみと放課後食事をして帰ると伝えた時も、心良い反応はしてくれなかった事を思い出す。
「厳しいかな?
ーーー無理なら…別の日でもいいんだけど」
私は言われて首を横に振った。
まぁーーーいいか…
澪がヤキモチを妬く男の子達と違ってーーー先生は私よりずっと年上の…いい大人なんだから。
「大丈夫ですよ。バイトも無いですし」
私はそう言って自分で頷いた。
「ーーーありがと。
ーーーじゃあ、志波裏駅の……空燕って店に来てもらえる?
俺顔馴染みだからーーー俺の名前出せば中に入れて待たせてくれると思うから」
先生に言われた駅の名前と店の名前を繰り返して、私はそれを携帯にメモする。
話ってーーーーなんなんだろうーーーー
「中華料理屋なんだ。
ーーー杏仁豆腐、美味しいんだよ」
そう告げて笑った先生の目尻に、シワが寄った。
私が杏仁豆腐が好きな事ーーー津田先生はしってるんだろうかと、頭の片隅で考える。
クラスの女の子がこの間話してた。
津田先生はカッコいい、って。
優しくて、紳士的で、知的で落ち着いていてーーーー今時の男の子とは違うーーーってそう言ってたっけーーーー
「じゃあな。17時に空燕。
ーーーー忘れるなよ…!」
「あ…はい!」
津田先生は軽く右手を挙げると私の前から去っていき、職員入口へと姿を消した。
澪もこれくらいーーー研究をしていても余裕があればいいんだけれどーーー…
そこまで考えて私はすぐにその考えを掻き消す。
こんな事思っちゃダメ。
澪と津田先生は年齢も違うし、それぞれ別の人間なんだから、違って当然だ…
そんな風に比べてーーー良いはずない……
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