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「入りにくかったでしょ? 外国の人しか居ないから、このお店」 先生は羽織っていたコートをすぐ横のハンガーラックに掛け、向かいのソファに腰掛けた。 「いえーーー大丈夫です。 素敵なお店ですねーーーーー」 私はもう一度辺りを見渡して言った。 なんだろうーーーーー… なんかーーーー緊張する…この感じ…… 先生程年の離れた男の人と向かい合わせに座った事が無いからなのかーーーそれともこの店の高級感に圧倒されてのことなのかーーーー 「ーーーお話って…なんですか?」 私は緊張感の理由が自分で分からず、間を埋めるために早速話を切り出した。 先生は「あぁ」と思い出したように微笑んでから、ジャケットの胸ポケットからスマートフォンを取り出した。 「コレーーーー聞いてみてくれるーーー?」 先生はそう言うと、スマートフォンの画面上のボイスメモのフォルダを開けて、再生ボタンを押した。 なんだろうーーーーーー 私はスマートフォンの画面を見つめたまま、思わず身を乗り出した。 「青木、美緒と付き合ってたんだな」 「ーーーーーー!?」 突然聞こえた、翔也の声。 でも翔也の声は私がいつも聞いている声と異なるーーーなんだか意地悪なーーー悪意のこもった声に聞こえた。 「ーーーーなんで?」 次に聞こえた、澪の声。 その後で、翔也の小さな笑い声が聞こえた。 「この間、美緒がお前の家に入るの見たんだ。 ーーー研究にしか興味がないと思ってたけど…そうでもないんだな」 翔也の口調にも、声にも、確かに感じる棘ーーー… 何…コレーーーー コレーーー…なんなの……? 「ーーー付き合ってるよ…。 ーーー騒がれるの苦手で、言わなかっただけでーーーー」 ぶっきらぼうな澪の声はいつもの他人に対する澪の声と変わらない。 「俺今日、美緒と食事に行くんだけど」 翔也が言って、沈黙が流れる。 私は訳がわからず、津田先生の顔を見た。 津田先生は口元に笑みを湛えたまま、私を視線だけで捉える。 ーーーーー津田……先生………? 「コレーーーなんだと思う?」 「ーーーー? ーーーーー何ーーーーー?」 翔也の問いを、澪が聞き返した。 思わず、私は息を止めてその答えを待つ。 「デートレイプドラッグ…知ってる? 飲み物に混ぜてーーー大人しくさせてからレイプする為に使う。 ーーーー美緒を喉から手が出る程欲しいって男がいてさーーー今日食事した後に、その男に美緒を紹介しようと思ってーーーーー」 頭が真っ白になった。 レイプーーーーー? 私をーーーー男に紹介するーーーー? 耳を疑う。 翔也が放った言葉の意味分かるのに、脳がその意味を理解するのを拒む。 心臓がドキドキと速くなる。 嘘だ。 だって私と翔也はーーー小さい頃からずっと一緒だったーーーー 保育園も、小学校も中学校もーーー高校だってずっと一緒でーーーー兄妹の様に過ごしてーーーーーー
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