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津田先生が亡くなってから、1週間が経過した。 あの日早退して以来、湯川さんは当然「エッジハウス」には顔を出さなかった。 それでも大学の講義は津田先生の代わりに青木先生や他の先生達が担当し、いつも通りの時間の流れが戻ってきていた。 人が1人亡くなってもそこまで変わらずに進む日常に、俺は虚しさを覚えていた。 それは要も同じらしく、要はここ一週間程ずっと大人しかった。 「ーーー紺田君と、葛西君?」 「ーーーーー?」 後ろから聞こえてきた声に、俺も要もほぼ同時に振り返った。 「そう…ですけどーーーー…」 黒いスーツ姿の男に声をかけられ、俺は答えた。 要は目を大きくしたまま、固まっている。 「京帝警察署の澤田(さわた)澤田啓介(さわた けいすけ)ですーーー。 津田教授についてお話をお伺いしたくてーーーーーいいかなーーー?」 真っ黒い髪に濃いめの眉毛、痩せている様に見えるが均整の取れた体つきは、流石警察官といった風に思えた。 警察手帳を見せられた段階で後退りしようとした要の背中を掴み「いいですよ」と俺は返事をした。 「ありがと…! ちょっとお茶しながらーーーーそこのスタパ行こうか。 コーヒー、ご馳走するよ」 にこやかに微笑んだ澤田さんを見て、俺はなんだか安心してしまう。 悪い人ではなさそうな気がする。 「なんでついていくんだよ…!」 要は渋々俺の後を歩き、小声で言った。 「いいだろ少しくらい…俺らが何したわけじゃ無いんだから……」 俺が言い返すと要は「そうだけどさ…」と視線を逸らした。 俺と要と澤田さんは横断歩道を渡り、駅ビルの中のスターパックスコーヒーに入った。 澤田さんのお言葉に甘えて、俺はチョコレートフラペチーノ、要は限定モノのホリデーフラペチーノを注文した。 「今は男の子でも、これくらい甘いの飲むんだよなぁ」 澤田さんはそう言って笑い、自分は昔の人間だからと言ってから、ブラックコーヒーを注文した。 「津田先生が亡くなったのがね」 席について少し雑談をしてから澤田さんは突然話を切り出した。 俺も要も、緊張からか背筋が自然と伸びる。 「津田先生は一週間前の9日の午後12時から午後15時までの間に亡くなっているーーーー お昼ご飯を妻である美緒さんと取った津田先生は、大学の第二棟の実験室に用があると美緒さんと別れた。 美緒さんはそのまま帰路に着いたがーーー夜になっても津田先生は戻って来ない。 不審に思いながらも…もしかしたらどこかで他の教授や生徒達と飲んでいるのか…なんて思っていたものの津田先生は一向に帰って来ず… 翌朝心配しながらも仕事先に向かった美緒さんは仕事先で津田先生が亡くなったと連絡をもらい、病院に駆けつけたーーーー というわけだーーーーーー」 そこまで話すと、澤田さんはブラックコーヒーに口付けた。
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