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久々に、随分と夢見の悪い朝だった。 俺は朝起きてすぐ、その人物が居るはずないのに自分の横を見て、目をこすりながら溜息をついた。 「別れよう…… 澪…連絡も全然くれないし…… ……これじゃあ付き合ってる意味ないよ…… 私それに………好きな人がいるから………」 もう10年以上前の事なのに、触れるくらいリアルに思い出す美緒の声。 美緒から別れを告げられた10年前の俺はショックを受けると共に、これが自分がした行動に対する、当然の報いだとも思った。 研究に没頭するあまり恋人である美緒を蔑ろにし、しかも美緒に知られてはないとはいえ美緒の幼馴染の男を殺した。 神様が俺から何も奪わずにーーーこれから先の人生を生かしてくれるはずは無かった。 「そっかーーー分かったーーーー ーーーーー色々とーーー…ごめんねーーー」 俺は美緒にそう返し、俺達はあっさりと別れた。 引き留めたいのに、引き留められなかった。 美緒は好きな人ができたと言っているし、美緒をこんな行動を取っていても心から愛していたのは自分だけだったのかと、少なからず裏切られた気持ちになった。 でもこれが、当然だとも思った。 俺は研究や勉強に集中するあまり美緒とほとんど連絡を取り合わず、デートだってしたとしても月に一度程度だった。 自分がした事を省みれば、美緒が俺とは違う普通の男を好きになる方が、正常な気さえした。 俺は自分が少しでも惨めにならないよう、出来るだけ淡々と、あっさりと美緒と別れた。 「他にもう好きな人がいるなら、仕方ないね」 とまで、口にして。 「うぃーーーっす……」 大学の門を潜ろうとした瞬間横から聞こえた気怠そうな声に、俺はつい顔を顰めた。 コイツ苦手だーーーー紺田要(こんだ よう)… 女慣れしてそうーーーというか、人馴れしてそうで、誰と話してもある程度上手く立ち回る姿は、俺に伊賀を思い出させる。 なのに着てる服とかは、俺も好きな系統の服で、つい数ヶ月前も、紺田は今の俺がかけているのと同じ様なパーマをかけてきた。 「おはよう」 俺はそれだけ言って紺田をスッと追い越した。 若いんだから…! もう少しシャキッと歩け…! そう思いながらそうとは言えず、俺はスタスタと早足で大学の中へ入った。 その日は夢見の悪さから、ずっと美緒のことを考えてしまって、俺はいつかの自分の様にビーカーを割り、試験管を割った。 集中しようとするのに、集中しようとすればするほどーーーーふとした瞬間に美緒が頭の中に現れる。 「(れい)ーーーー!!!」 あんなに残酷に別れを告げたクセに、俺の背中が好きだと言っては、何度も後ろから俺を抱きしめた美緒。 当時の俺は美緒に好きな人が出来てしまうなんて夢にも思わずーーー ましてその相手がーーーー津田先生だなんて思いもしなかった。
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