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今朝見た夢のせいで美緒の影に取り憑かれたままの俺は、割った試験管とビーカーを補充しようと実験室に立ち寄った。
お昼を食べようと思ったが、食欲が湧かない。
俺は食堂へ向かうのをやめて、研究室を出てそのまま実験室へ直行した。
ーーー…昼食を一日取らなかっただけで…死にはしないーーーー…
俺は実験室の扉を開けて、教壇の下にある引き出しからビーカーと試験管の入った箱を取り出す。
美緒に一目惚れした10年前の俺も、試験管とビーカーを割り、相澤先生にジロリと睨まれた。
先生は白目がちのくっきりとした二重で、眼鏡の奥から俺を見つめ「青木君、集中しなさい」とただそれだけ告げた。
「嫌になるな……」
また結局こうやって、俺は美緒を理由にビーカーも試験管も同じ様に割ってしまう。
俺は昔から、変わらないーーー変われないままだ。
津田先生と結婚した美緒をいつまでも好きでいて、美緒の話を聞きたくないが為に津田先生や他の教授達とのやり取りを避けている。
津田先生と美緒の話なんて、聞きたくなかった。
まして酒の席で話されるような惚気話や、そういう…夜の話とかは絶対に嫌で、俺はそういう集まりをもうずっと避け続けている。
「ーーーーーー…?」
新しいビーカーと試験管を箱から出そうとしていた俺は、薬品庫の方に顔を向けた。
ーーー…気のせいだろうか…
今ーーー…何か音がしたと思ったけどーーー
俺はそう思いつつもビーカーを箱から取り出し、続いて試験管も慎重に箱から取り出す。
コレも割ったらーーー流石に教授として失格だと思いながら。
「ーーーーーー」
俺は再び、顔を薬品庫の方へ向ける。
やっぱりーーー誰かいるーーーーー?
誰かーーーーー話してるのかーーーーー?
俺はビーカーと試験管を実験室の台に置き、薬品庫の扉へと近づいた。
鍵がーーーーー開いてるーーーーー?
俺は音がしないように気をつけながら、薬品庫の扉を2、3センチだけ開いて、中を覗き見る。
そして目に映ったのは、あまりにも衝撃的で、残酷な光景だった。
息を止めて、心拍数が速くなると共に、俺の指先は痺れ、細かに震え始める。
美緒がーーー薬品庫の壁と津田先生に挟まれるような形で立っているーーー立たされていると言った方が正しいだろうか。
美緒はただ立っているのではなく、長い髪を津田先生に掴まれ、着ているワンピースは膝のかなり上までたくしあげられ、白い太ももが顕になっているーーーー
これはーーーーーー
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