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「あんまり俺以外の男と仲良くしたら警察に話しちゃうよーーー
……アレが事故じゃない…脅された青木がーーー伊賀を階段から突き落としたんだって…!」
津田先生は美緒の胸を、ワンピースの上から揉みながら告げた。
俺の頭の中からあの日のーーー最も思い出したくない記憶が蘇るーーー
『ーーー階段から落ちたらしい…
ーーーー研究発表会の準備でーーー…無理が祟ったのかーーーー…
疲れてて足を…踏み外したのかーーーーー』
津田先生はーーーー自首しようと伊賀のもとへ行った俺にそう告げたーーーー
俺はその言葉をいい事に自首する事をやめーーー伊賀の死は事故として処理された。
俺とーーー死んだ伊賀以外にーーーー
ーーー真実を知る者は居ないーーーーそう思っていたのにーーーーー
「ーーーッ!!!
ーーー…やだッ……やめてよ慎さん…!
ーーーもう私…慎さん意外の人と仲良くしないから…!
ーーー葛西君ともーーーちゃんと距離置くしーーー
紺田君ともラインしたりしないからッーーー!」
言いかけた美緒は長い髪を引っ張られ壁に頭を打ちつけられ、言葉を途中で切った。
俺は震える手で薬品庫の扉を更に2、3センチ開いた。
俺は美緒が津田先生に乱暴されるのを見ながら、目の前で起きている出来事を未だに信じられず、見たくないのに何度も目を凝らしてその光景を見た。
津田先生と美緒の様子はーーーー俺が他の教授達から聞く「おしどり夫婦」という構図からはかけ離れていたからだ。
「アハハハ!!!
ーーー随分必死だな……?
……そうだよな…青木と伊賀の為に俺と結婚してーーー
人生を俺に売ったんだもんなぁ…?…だろ?」
津田先生は口を三日月型に吊り上げ、美緒を見下ろしてニヤリと笑いながら告げる。
口は笑っているのに、目は美緒への怒りが滲んでいて、そのアンバランスさに背筋が寒くなった。
人生を売ったーーーー?
俺と伊賀の為に結婚したーーーーー?
津田先生の言葉を頭の中で繰り返しながら、自分の犯してしまった罪の重さに、指先が冷たくなっていく。
それは伊賀を殺した時と同じ重さでーーーー重い罪として俺の心にのしかかってきた。
俺は美緒をーーーーーー
「ーーーーッ…なんでも…するから……
だからお願い…!
………澪の事ーーー警察に言わないでーーーー
翔也の事もーーー言っちゃダメ……
なんでも…なんでもするから……お願いします……」
美緒の震える細い声が耳に届いた瞬間、俺の右手は白衣のポケットの中のモノに触れる。
コレーーーーーーーー
「ーーーー…いいよ?」
津田先生はそう言うと、掴んでいた美緒の長い髪を手放した。
「ーーーッ…!…ほんと…?」
震える細い声はそのままに、嬉しそうに…安堵したように津田先生を見上げる美緒に胸が痛む。
「ーー…でもその代わりーーーー」
「ーーーーッ!?」
美緒は小さな悲鳴をあげて、息を飲んだ。
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