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青木先生と湯川さんの告白に、俺も要もーーー澤田さんですら言葉を発せずにいた。
青木先生は顔色を変えずに淡々と、自身が伊賀翔也を階段から突き落とし、津田先生を殺害した動機について説明をした。
それはまるでいつもの講義をしているのかと思う程の落ち着きで、人を2人殺したと証言しているのが嘘の様だった。
それに反して湯川さんは思い出すのすら辛そうにしながらも、要に支えられる事無く自分の足でしっかりと立ち、津田先生と結婚した経緯を説明してくれた。
今、要の手を借りずに立つ事はーーー湯川さんの要に対する罪悪感の現れに見えた。
「ーーーー意外に気づかれないもんですね。
土壇場で殺してしまったのでーーーーもっと早く捕まえられるかと思っていました……。
ーーーーあんな男ーーー死んで当然ーーー殺されて当然ですよーーーー
ーーー澤田さん…
…貴方だってそう思うんじゃないですか?
ーーーーアイツの……津田慎の…裏の顔を知ったら」
青木先生は呆れた様に吐き捨てて、澤田さんに視線を向けた。
澤田さんは何も言わずに、いつもの困った様な顔を崩さなかった。
「やれやれ」とでも言うような、駄々をこねる子供を見て困ったかのような、澤田さんの顔。
「ーーーーー澪は……あの人を殺した後………
あの人の遺体を薬品庫にあるキャスター付きのゴミ入れに入れてからーーーー
『コレは俺が片付けておく。
美緒はーーー早く逃げる事』ーーーって…
それだけ言って……薬品庫から出て行きましたーーーー」
湯川さんの声は震えていた。
湯川さんと要がここに現れる前にーーー青木先生から自分が犯人だと打ち明けられーーー俺と澤田さんが立てた仮説ーーーーそれはーーー…
「ーーーー貴女が青木澪になった訳ですね」
澤田さんに言われた湯川さんは『はい』と小さな声で返事をした。
湯川さんの背後に立つ要は、湯川さんと青木先生から視線を外し、研究室の床をぼんやりと見つめていた。
湯川さんに恋をしていた要にはーーー2人の話は耳を塞ぎたくなる程のーーー酷な話だったのかもしれないーーー
「ーーー澪は…あの人を咄嗟に殺して……気が動転していたんだと思いますーーー…
私は澪が去った後ーーー薬品庫に澪が…大学のカードキーを忘れて行った事に気がついたんですーーーー」
湯川さんの告白に、今度は青木先生が視線を床に向けた。
青木先生は後悔しているのかも知れないーーーー
湯川さんに、意図的ではなかったとはいえ、自分の罪を2度も隠蔽させようとしてしまった事。
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