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「紺田君はーーー研究室で居眠りをしたのではなくてーーーー…私に眠らされたんですーーーー 私は紺田君に食後のコーヒーをご馳走すると言って……睡眠薬入りのコーヒーを飲んでもらってーーーー薬が効き始める頃に言いました。 『夫の忘れ物を届けたいから、研究室に一瞬入れて欲しい』ってーーー実験室や視聴覚室のようなーーー幅広い生徒が入る部屋にカードキーは無いですけどーーーー 研究室だと入れる人間は厳しく管理されています……私は紺田君があの人の研究室に出入りできるのを知っていてーーーー ーーーー紺田君ならきっと『いいっすよ』って… ーーー私の事を研究室にこっそり入れてくれるんじゃないかと思ったんです……! ーーーそれでーーーー紺田君と一緒に研究室に入る瞬間にーーー…ドアノブの鍵の部分にガムテープを貼っておきました……… そしたら鍵は掛からなくなります… ーーーそうして…あの人の机を少し触ったり、探し物をしてるフリをしたり、話をしたりしてーーーー 薬が効いてくるまでの時間稼ぎをしましたーーーーー」 湯川さんはそこまで言い終えて、要の方へ向き直った。 要は気まずそうな顔で、湯川さんと向き合う。 俺は自分がここに居る事が、申し訳なくなった。 好きな女性が、自分とは別の好きな男性を庇う為に、自分を利用したーーーー俺が同じ目にあったら、きっと今この状況から逃げ出したくなる。 「ーーーー紺田君が…眠ったタイミングで…… 私は内側から扉を開けて、ドアの鍵穴に貼ったガムテープを外してーーー外側から澪のカードキーをかざしました…… 後は一定時間研究室の中に身を隠していてーーーー ……紺田君が起きる前にーーー澪があの人の遺体を隠し終わった頃に研究室から出れば、澪はここにいた事になるーーーーそう思いました… ーーーー本当に…本当に、ごめんなさい……!」 湯川さんは頭が床につくのではと思うほど頭を下げて、要に告げた。 湯川さんは要の気持ちをーーー知らなかったのだろう。 それを証明するかの様に、湯川さんの声は再び震えた、弱々しい声になった。 ーーー彼女が居ると告げて、自分の家に出入りしても淡々としていた要を見てーーーー湯川さんは要が本当にただ純粋に、善意で自分の家に出入りし、話し相手になってくれていると思っていたに違いない。 要は頭を下げたままの湯川さんの頭の位置と、自分の顔が同じくらいの位置にくる様にしゃがんでから、先程の気まずそうな表情を、一転して崩して笑顔を作った。
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