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「ーーーーー…なんで…言わなかったの……?
ーーー…私を…研究室に入れた事………
ーーー…言ったら……言った方が……絶対良いのにーーー…」
湯川さんは涙を堪えきれず、涙を手の甲で拭いながら尋ねた。
要はまた『何を聞いてるんだ』とでも言うように笑う。
「言えませんよ…!
ーーーーあの時の湯川さんの事見てたら……言う気に…なりませんでした…
湯川さんが誰かを庇う為にーーー俺を眠らせたんであればーーー…それは良かったんですーーー…
……この通り……!
ーーー…何の問題も副作用も無く、元気だし」
副作用ーーー…side effects
俺は要の言葉から、その反応を思い出す。
使用した薬の目的とする作用に伴って起こる、別の作用。
人体にとって悪い影響を及ぼす作用を副作用と呼ぶ傾向が強いがーーーー本来の意味では…良い作用か悪い作用かによって呼び分けられてはいない。
湯川さんは青木先生を一目見たいがために携帯を津田先生に持って行った。
携帯を持っていって大学に入り、津田先生に携帯を渡してーーー何事も無く、運良く青木先生を遠くから少し見れたらーーー湯川さんはそれで良かったはずだった。
でもその行動はーーー思い描いた結果にならなかった。
湯川さんは俺と親しげに話しているところを津田先生に見られて先生の逆鱗に触れーーー挙句携帯の中を見られて、要と連絡を取り合っている事を知られてしまったーーー。
そうして嫉妬に狂った津田先生に薬品庫に連れて行かれてーーーー『お仕置き』の最中不幸にもやってきた青木先生が津田先生を殺してしまうーーーーーー
「ーーーー好きだったんすよね…青木先生の事ーーーそれにーーー伊賀さんの事も…伊賀さんのお母さんの事もーーー湯川さんは守りたかったんですよねーーー…」
要の言葉に、湯川さんはまばたきする程の小ささで頷き、頷くと同時に涙が床にこぼれ落ちた。
「ーーーーよかったじゃないですかーー…
ーーー自分の気持ちがーーー…10年前の真実がーーーー青木先生に伝わってーーーー
コレが無かったら青木先生にはきっとーーー
……湯川さんはただ津田先生を好きになって自分を振ったーーーーって……
ーーー…伊賀さんもただ金欲しさに売春をさせていた悪い男ってーーーそう思われていたんですからーーーー」
そうだ。
俺はこれこそがーーーこの反応こそが、この事件の最も重要で、大切な副作用に思えた。
湯川さんのした事もーーー伊賀さんのした事もーーー青木先生のした事もーーーー当然許される事じゃない。
津田先生が死んで…殺されてよかった筈なんて絶対ない。
2人とも法律で裁かれるべきでーーー津田先生だって本当はきちんとーーー法律で裁かれるべきであったに違いない。
でもこうやってーーーー許されない事をして見えてきたものがある。
それは自分の思い描いたーーー期待した結果にはならずにーーー予想外に見えてきた副作用のようだった。
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