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「ーーーーもういいでしょ…… ーーーさあ、刑事さん。 ーーーー手錠を…どうぞーーー… …覚悟は出来てます。 …2人も殺したんだからーーー ーーー俺がするべきは…最初に伊賀を突き落とした時にーーーーきちんと貴方達警察の手を借りてーー…法に裁かれる事でした…… 例え……人生を棒に振ってもねーーーーー」 澤田さんは淡々と両手を差し出した青木先生に手錠をかけた。 そのタイミングで他の警察官達数人が入ってきて、青木先生の後ろに立つ。 澤田さんはそのまま真っ直ぐ湯川さんの前に立ち、再び手錠を取り出した。 湯川さんは大人しく両手を澤田さんの前に差し出す。 湯川さんは手錠をかけられる瞬間、その長いまつ毛を伏せた。 「そうだーーーーー」 澤田さんが言いかけ、湯川さんが顔を上げる。 「津田先生は貴女に内緒で……パイプカットをしてたみたいですねーーーー… 子供にまで貴女を取られたく無いとはーーーー本当に嫉妬深いお方だったようで」 湯川さんだけでなく、その言葉に俺も要も、青木先生も目を大きく見開いた。 それじゃあーーーーー 「野上(のがみ)ーーーー彼女を署までーーー… 妊娠しているからーーーそこの配慮…よろしく」 澤田さんが告げると直ぐに、湯川さんの横に女性の警察官が立った。 髪の毛を一本に束ねた、端正な顔立ちの女性。 女性は湯川さんに「いきましょうか」と声をかけて、歩き出す様促した。 湯川さんは頷き、ゆっくりと歩き出す。 入り口で菅原さんが、申し訳なさそうに扉を開けて、軽く頭を下げていた。 「待ってーーーー…!」 湯川さんは研究室を出る直前、女性警察官の横で足を止めて振り返った。 「ーーー澪……本当にーーー……私のせいでごめんーーーー! ……外国ーーー行くんだったんでしょ……? 夢だったのに……ずっと……… ……ニューヨークの大学で教鞭をとってーーーー日本とまた違うーーー整った設備でーーー薬品の開発に携わる学生を育てる事ーーーーーー それなのに………本当に……ごめんなさい…!」 涙を堪えながら告げた湯川さんに、俺は胸が締め付けられそうになった。 湯川さんは青木先生の幸せをーーー夢が叶う事を願いーーー自分が津田先生と結婚する事を決めた。 それなのにーーーー青木先生は湯川さんの為に津田先生を殺しーーー罪をまた一つ重ねてしまった。 湯川さんはどんな気持ちだったのだろう。 自分の為に津田先生を殺した青木先生を見てーーーーどう思ったかはーーー湯川さんにしかわらないけどーーーー こういう結果になった事が悔しく、やるせなかった。 俺が逆立ちしたって、何か出来たわけでは無いのにーーーそう思えて仕方がなかった。 「……私を捕まえさせれば……よかったのにーーーーー ……私があの人を殺したって言えば………澪がそのままアメリカにーーー…行くことだって出来たのにーーーーー」 青木先生は湯川さんの言葉に『何を言っているんだ』とでも言うようにメガネの奥の目を細め、笑った。
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