177人が本棚に入れています
本棚に追加
/97ページ
「ーーーーもういいでしょ……
ーーーさあ、刑事さん。
ーーーー手錠を…どうぞーーー…
…覚悟は出来てます。
…2人も殺したんだからーーー
ーーー俺がするべきは…最初に伊賀を突き落とした時にーーーーきちんと貴方達警察の手を借りてーー…法に裁かれる事でした……
例え……人生を棒に振ってもねーーーーー」
澤田さんは淡々と両手を差し出した青木先生に手錠をかけた。
そのタイミングで他の警察官達数人が入ってきて、青木先生の後ろに立つ。
澤田さんはそのまま真っ直ぐ湯川さんの前に立ち、再び手錠を取り出した。
湯川さんは大人しく両手を澤田さんの前に差し出す。
湯川さんは手錠をかけられる瞬間、その長いまつ毛を伏せた。
「そうだーーーーー」
澤田さんが言いかけ、湯川さんが顔を上げる。
「津田先生は貴女に内緒で……パイプカットをしてたみたいですねーーーー…
子供にまで貴女を取られたく無いとはーーーー本当に嫉妬深いお方だったようで」
湯川さんだけでなく、その言葉に俺も要も、青木先生も目を大きく見開いた。
それじゃあーーーーー
「野上ーーーー彼女を署までーーー…
妊娠しているからーーーそこの配慮…よろしく」
澤田さんが告げると直ぐに、湯川さんの横に女性の警察官が立った。
髪の毛を一本に束ねた、端正な顔立ちの女性。
女性は湯川さんに「いきましょうか」と声をかけて、歩き出す様促した。
湯川さんは頷き、ゆっくりと歩き出す。
入り口で菅原さんが、申し訳なさそうに扉を開けて、軽く頭を下げていた。
「待ってーーーー…!」
湯川さんは研究室を出る直前、女性警察官の横で足を止めて振り返った。
「ーーー澪……本当にーーー……私のせいでごめんーーーー!
……外国ーーー行くんだったんでしょ……?
夢だったのに……ずっと………
……ニューヨークの大学で教鞭をとってーーーー日本とまた違うーーー整った設備でーーー薬品の開発に携わる学生を育てる事ーーーーーー
それなのに………本当に……ごめんなさい…!」
涙を堪えながら告げた湯川さんに、俺は胸が締め付けられそうになった。
湯川さんは青木先生の幸せをーーー夢が叶う事を願いーーー自分が津田先生と結婚する事を決めた。
それなのにーーーー青木先生は湯川さんの為に津田先生を殺しーーー罪をまた一つ重ねてしまった。
湯川さんはどんな気持ちだったのだろう。
自分の為に津田先生を殺した青木先生を見てーーーーどう思ったかはーーー湯川さんにしかわらないけどーーーー
こういう結果になった事が悔しく、やるせなかった。
俺が逆立ちしたって、何か出来たわけでは無いのにーーーそう思えて仕方がなかった。
「……私を捕まえさせれば……よかったのにーーーーー
……私があの人を殺したって言えば………澪がそのままアメリカにーーー…行くことだって出来たのにーーーーー」
青木先生は湯川さんの言葉に『何を言っているんだ』とでも言うようにメガネの奥の目を細め、笑った。
最初のコメントを投稿しよう!