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「ーーーいいよそんなの……!
ーーー……そんな……好きな人を牢屋に入れてまで…叶えたい夢じゃ無いからーーー」
『好きな人』
はっきりとそう告げた青木先生の言葉が、俺の涙腺を緩ませた。
そうかーーーー湯川さんと同じく青木先生も学生の頃からずっとーーー
いや、もしかしたらこれからの生涯もずっとーーー
湯川さんが『好きな人』なのかーーーー
「……美緒ーーー今までごめんーーーー
ーーー謝るのは……俺の方だよーーー……
俺のせいでーーー俺があの時…
……逃げたばっかりにーーーーーーー
美緒に自分の人生をーーー生きらせてあげられなかったーーーー……」
青木先生は手錠をしたまま、頭を深々と下に向けた。
「ーー本当にごめんーーーーー…
ーーー…夫にもなれずーーー…その子の父親にもなれないーーーー…してあげられる事はーーーッ……何一つ無いのに……ーーーー…
ーーーーーーいまだに美緒の幸せを……無責任にーーー…自分勝手に願ってしまうーーーー………
ーーーー本当に……ッ……ごめんーーーー!」
青木先生は涙声になった声を引っ込め、俯いた。
顔を長めの前髪で隠し、顔を上げようとはしないーーーー涙を……湯川さんに見られたく無いのだろう。
湯川さんは驚いた瞳いっぱいに涙を溜めたまま、入り口に立ち尽くす。
「ーーーー連れて行ってやってくれ…
ーーー湯川さん……さ、行くんだーーーー…
ーーー青木先生を本当に愛してた貴女ならーーーそうした方が良いってーーー分かるよな…?」
澤田さんは青木先生の肩に手を置き、湯川さんと野上さんに告げた。
湯川さんは野上さんにもう一度「行きましょ」と小声で促され、青木先生の方を何度か振り返りながらも研究室を後にした。
俯いたままのーーー湯川さんが大好きだったーーーー要そっくりの青木先生の背中はーーー小刻みにずっと震えている。
俺には澤田さんの告げた真実がーーーー青木先生が理性で堰き止めていた涙腺を決壊させたのだと思った。
湯川さんの子どもはーーー津田先生の子どもじゃないーーーー…
青木先生のーーー子どもだったんだーーー…
「ーーーーさ…先生も行くぞーーー…
ーーーーーよかったじゃないか………アンタ達はちゃんとーーーーこの十数年…相思相愛だったんだよーーーー」
澤田さんに告げられて青木先生は水を浴びた犬の様に頭を振ってから、手錠をかけられた手でゴシゴシと涙を拭った。
そうして真っ赤な目をしたまま顔を前に向け、澤田さんの部下に右腕を掴まれた状態になった。
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