カプチーノ

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なんだかんだと言い訳をつけて、私がこっそり鞄に入れてきた文庫本を取り出したその時だった。 コンコン、と扉をノックされて反射的に立ち上がる。 「は、はいっ!!どうぞ!」 扉に向かって声をかけ、体を向ける。真っ白でフワフワのドレスは、あまり体を動かすのに向いていない。 動き回るなら付き人のスタッフさんを呼ぶべきなんだろうが、生憎紬さんの支度の確認でいまこの部屋にいるのは私だけ。 ドレスをどう持ち上げて歩こうかと考えているうちに扉が開いた。 その扉から顔を覗かせたのは、眼鏡をかけ白い髭を蓄えた、見たことのないおじいさんだった。 「えっと……?」 戸惑って首を傾げると、おじいさんはにこやかな笑顔を浮かべ私に問いかけた。 「失礼する。ここは芦屋まひるさんの控え室で間違いないか?」 「は、はい!!」  全く面識がないけれど私の名前を知っているということは、このおじいさんはきっと紬さんの親戚に違いない。 おじいさんはダークネイビーのスリーピースのスーツに、ストライプ柄のネクタイを締めており、私のおよそ考える『おじいさん』とはかけ離れていた。
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