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その中に着ているのはライトグレーのこれまた光沢を帯びたベスト。首元を彩るのは淡い紫のアスコットタイだ。
か、かっこいい……!
間違いない、世界一素敵な花婿だよ。
事前に話し合い、式当日までお互いの衣装を秘密にしていた私は紬さんの格好に思わず見惚れる。
しかしそれも長くは続かなかった。私の隣から聞き慣れたあの音が聞こえてきたから。
「チッ」
えっ?紬さんが目の前にいるのに、なぜこの音が?
音のした方向に首を巡らせると、先ほどまでニコニコしていたはずの優しそうなおじいさんは表情を変え、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「……なんだお前、もう来たのか。わざわざここの付き人に頼んでお前を足止めしてもらったのに」
おじいさんの印象は先ほどと全く違う。
なんとなく嫌な予感がひしひしとし始め、握りしめていたおじいさんの手をそろっと離したけど、私の掌は再びおじいさんに掴まれた。
「ひえっ!!」
おじいさんは先ほどの穏やかな微笑みが思い出せないくらい、悪い顔で笑いながら私の両掌を握りしめる。
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