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「うん、それは仕方ないと思う。
多分その結婚に納得してなかったんだろうね。彼女は完成した原稿を住んでいる屋敷に隠してしまった。
『仁科隆聖』の作品が、亡くなった後でも新作としてぽつぽつ発表されるのは隠された原稿が発見されるからなんだ」
「そ、そうだったんですね」
まだ混乱しているものの、妙に腑に落ちたその時。
ノックの音がして、写真撮影のために男性のカメラマンさんが入って来た。
「失礼します。新郎の方、恐れ入りますが控室の窓際に佇むシーンを撮らせて頂いてもいいですか?」
声をかけられた紬さんはカウチソファから優雅に立ち上がり、いつもの嘘くさい笑顔を浮かべる。
「はい、どちらに立ったらいいでしょうか?」
「あ、その辺の窓際で……そうですね、ソファに手をついてこちらに目線いただけますか?」
またも取り残された私は、唐突に始まった紬さんの撮影をぽかんとしたまま眺めた。
ただ一つだけ言えることは、私も聖さんも執着心の強い男性さんに惚れられたのが運の尽きで、最初から逃げられなかったんだなって。
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