下衆と天使の珍道中

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 月の位置が高くなった頃、散らばったアルミ缶の下敷きになっているスマホに連絡が入った。 たしか、この電話のマークを押しながら右に引っ張ればいいのか。 人様よりもずいぶんと遅くスマホデビューをした俺は、スマホの基本的な操作にも四苦八苦した。電話の出方も、つい二、三日前にデリヘルのマミちゃんに教えてもらったのだ。 教わった通りに操作をしてみるが、うまくボタンが反応せず、何度か人差し指を押し付けて横に移動させる。通話時間が表示され、ようやく電話が繋がったことに気づいた俺は、スマホを耳に当てた。 「よぉ、タナカくん。出るのが遅かったじゃないの」 「悪いな、なんせスマホの扱いに慣れなくて。競馬中継の見方だけはマスターしたんだがな」 「インスタグラムとかティックトックとか、他のアプリも入れたらどうだい。高円寺の奴らにゃ皆使ってるぜ?」 「若者の間で流行っているアプリか。よせやい俺はそんなタチじゃねえ。そんなことよりなんだって連絡を?」 「なかなか顔馴染みが集まらなくてよぉ。暇ならこっちに来ないか?」  壁にかけている時計に目を向ける。電池が切れている時計は役に立たなかった。仕方なくテレビをつけて時間を確かめる。すでに零時を回っていたが、明日の仕事は昼からである。問題はない。「いいぜ」と返事を返し、電話を切る。冷蔵庫からビールを一本取りだして家を出た。  
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