下衆と天使の珍道中

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 今回は長旅である。 二日かけて本州の南のほうまで行き、帰ってくる。つまり今夜は酒が飲めないということだ。 酒が飲めないときは煙草である。最近はどこの店でも自由に吸うことができなくなり、社会から分離されたような隅の喫煙所で楽しむしかない。 しかしトラックの中は自由だ。長時間の運転にうんざりすることはしょっちゅうあるが、その都度一服して中和すればよい。簡単な話だ。 ところで、俺の働いている描写などだれも興味がないことだろう。割愛する(!)。  二泊三日の長旅を終えて会社に戻り、相棒を洗車して燃料を給油する。会社への報告も終わり、あとは家に帰るだけだ。 既に暗くなってしまった人気のない道を車で走る。誰からも歓迎されない余所者にでもなった気分だった。帰ったらとりあえず酒を飲もう。 目前のご褒美に、つい気が緩んでしまった。 突然現れた人影に、慌ててブレーキをかけた。なにかに衝突した感覚があり、遅かったのだと察する。心臓がありえないほどにドクドクと叫んでいる。しばしの間放心していると、外から怒鳴り声が聞こえてきた。 「おいおいおいおい、うちの娘に何しやがったんだよ、えぇ!?ああ、みこちゃん、大丈夫?痛かったでしょ、可哀想に。よしよし、泣かないで。……あんたも黙ってないで出てきたらどうなんだ、加害者さんよォ!」
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