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加藤の両肩を掴み、言い聞かすように顔を近づける。苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた加藤は、視線を下にそらし、首を左右に振った。
「大した怪我じゃないさ、お前は気にしなくていい。……こっちにも事情があるんだ」
少女を手招きした加藤は、大人しく近寄ってきた少女の頭を撫でた。少女の擦りむいた膝の傷が痛々しかったが、それ以外に特に目立った外傷はなく、俺は少し安堵したのだった。
「なあ田仲、この後時間があるなら飲みに行かないか?」
少し話そうぜ。と加藤は弱々しく言った。
加藤は池袋に住んでいるらしい。幼いみこちゃんを夜遅くまで連れ回す訳にはいかないので、一旦家に帰ってから池袋で飲むことにした。俺は終電を逃して家に帰れなくなっても何も支障をきたさないが、加藤には家で待っている娘がいる。それに池袋には居酒屋が多い。ちょうど良かった。
十時半。みこちゃんを寝かしつけた加藤と落ち合い、加藤の行きつけの店に入った。
まずはビールを一杯。軽くジョッキをぶつけて乾杯する。一人で飲むよりも随分と美味い。
「お前、結婚してたんだな。あんな可愛い娘がいて羨ましいぜ」
「嫁とはもう別れたけどな。離婚届をバンッて机に叩きつけてさ、『こんなクズとは生きていけない!』つって出ていったんだ」
ドラマのワンシーンみたいだったぜ、と他人事のように加藤は語る。そういう淡白なところがいけないんだぜ、と伝えたかった。
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