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「そういうお前はどうなのよ。ま、想像はついてるけどな」
「うるせえ。こっちはプロが相手なんだぞ」
「物は言いよう、ってな」
懐かしい感覚だった。高校のときもくだらないことを言って笑い合った。歳月を経て関係が変わることも少なくないが、俺たちの関係は変わらないようで安心した。
酒が進んできた頃、俺は気がかりに思っていたことを口にした。
「みこちゃん、本当に大丈夫だったか?お前の娘を傷つけてしまって悪い。俺があのときしっかり前方を気にしていたらよかったというのに」
この話題は加藤にとっても苦い話だったのだろうか。表情を曇らせて口ごもった。
「お前にだから話すけどよ。仕事してないんだよね、俺」
「そりゃまたすごいな。嫁さんにも逃げられて、どうやって生活してるんだよ」
「そう疑問に思うよな、普通」
加藤は視線を遠くに向けた。隣のテーブルでは酔っ払いが歌っていた。入り口では店員がデカい声で客を出迎えていた。居酒屋の喧騒さが心地よかった。
「簡単に言うとさ、当たり屋やってんのよ。暗くなった時間帯にさ、ノロノロ走ってる車を狙って。ぶつかっても大怪我にはならないからな」
「お前それ、いや、まさかみこちゃんを使ってやってるのか」
加藤は黙った。沈黙は肯定だ。
「本当にクズだな」
うっかり口を滑らせてしまった。その途端、人が変わったように加藤は俺の胸ぐらを掴んで引き寄せた。
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