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01 宣戦布告
◇四月七日(火)
音楽の授業以降、僕の頭の中は彼のことで埋め尽くされていた。授業中はもちろん、放課後になって楽器の用意をしている、今この瞬間も。
舞台袖からちらっと見ただけだから、見た目の記憶は当てにならない。けど、天(あま)方(がた)奏(かなで)なんてそうある名前じゃない。でも――。
「…………」
周囲を見れば、僕と同じように楽器を組み立てる新一年生が何人もいる。けれどそこに彼の姿はない。
「やっぱり、吹奏楽部には……」
「だーれだっ!!」
「え、うわッ!?」
楽器を見つめてそんなことを考えていると、突然目の前が誰かの手で覆われる。危うく楽器をとり落としそうになったところで、視界が解放された。
ほっと溜息をつき、悪ふざけの犯人を睨みつける。
「朱音先輩! 楽器持ってるときはやめてって言ってるでしょう!?」
「いやーごめんねえフーマ。次やるときは気を付けるから」
犯人――三年の月島朱音先輩は全く悪びれる様子なく、ウインクをしながら手を合わせた。
「はあ、気を付ける気ゼロじゃないですか。ほんっと中学から変わりませんね」
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