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「そりゃそうよ、せっかくかわいい後輩とまた同じ部活になれたんだから、いじらないと損ってものでしょう」
いい笑顔でそんなことを言う朱音先輩に毒気を抜かれ、僕は諦めのため息をついた。朱音先輩は中学の吹奏楽部からの先輩で、僕を強引に勧誘した張本人でもある。
「絶対後悔させないから!」という朱音先輩からの猛アタックで始めた吹奏楽は、本当に、僕に一切の後悔をさせないくらいに楽しかった。
まあ何が言いたいかと言うと、この底抜けに明るい先輩は僕の恩人みたいな人で――。
「で、どうしたのかね夜澄後輩。恋の悩みならおねえさん、相談に乗るよ?」
困っている後輩を放っておけない、優しくて頼りになる先輩なのだ。
「そんなんじゃないですよ。ただ、ちょっと……」
一瞬彼の、天方奏のことを聞こうかと悩む。高校の吹奏楽部にはどこの中学の誰が上手かったとか、そんな情報が自然と舞い込んでくる。でも彼の場合、きっと中学でも吹奏楽部には所属していなかっただろう。でなければあんなに上手いのに、同期の吹奏楽部員の間で話題にならないはずがない。
「んー?」
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