01 宣戦布告

7/15
前へ
/189ページ
次へ
「全然、、性別なんて関係ないんだけどなぁ」  どうしてわかってくれないんだろ。 『吹いたこともない奴が――勝手なことを言うな』  彼の、天方奏の言葉が脳裏をよぎる。  あの時、彼は怒っていた。それは彼のことを知らなくてもわかる。そして、彼が怒った理由も。クラスメイトはよくわかっていなかったようだけど、僕にはよく、理解できた。  あの日、一瞬だけ聴いた彼の音を思い出す。  ――今の僕には無理だけど、彼の音なら。  フルートは女の子っぽいとか、男らしくないとか、そんなくだらない先入観、粉々にしてくれるかもしれない。  情けないことだけど、本気でそう思った。  彼の音は、それだけ圧倒的だった。今まで聴いたどんな音よりも、重厚で、存在感があって、それなのに華やかで軽やかで、まるで、音そのものが質量を持っているような、そんな音。  力強いのに優しくて、とても耳に馴染むのに特別な、そんな――。  ――そんな風に、彼のことばかり考えていたからだろうか。  昇降口から、今まさに外へ出ようとするその姿を、僕の瞳は見逃さなかった。 「あの――!!」
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加