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「全然、、性別なんて関係ないんだけどなぁ」
どうしてわかってくれないんだろ。
『吹いたこともない奴が――勝手なことを言うな』
彼の、天方奏の言葉が脳裏をよぎる。
あの時、彼は怒っていた。それは彼のことを知らなくてもわかる。そして、彼が怒った理由も。クラスメイトはよくわかっていなかったようだけど、僕にはよく、理解できた。
あの日、一瞬だけ聴いた彼の音を思い出す。
――今の僕には無理だけど、彼の音なら。
フルートは女の子っぽいとか、男らしくないとか、そんなくだらない先入観、粉々にしてくれるかもしれない。
情けないことだけど、本気でそう思った。
彼の音は、それだけ圧倒的だった。今まで聴いたどんな音よりも、重厚で、存在感があって、それなのに華やかで軽やかで、まるで、音そのものが質量を持っているような、そんな音。
力強いのに優しくて、とても耳に馴染むのに特別な、そんな――。
――そんな風に、彼のことばかり考えていたからだろうか。
昇降口から、今まさに外へ出ようとするその姿を、僕の瞳は見逃さなかった。
「あの――!!」
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