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過去から来た子供?
買い物を済ませ部屋に戻り、かねてから考えていたレイアウト通りに杉本の手を借り整えていく。
結果、予算の都合上必要最低限の家具だけという殺風景な部屋に仕上がったがこれで納得する事にした。
そして昼。予想以上に金がかかったためコンビニ弁当を買い部屋で食べている時、杉本が言ったのだ。
クローゼットが開いている。
バタバタとせわしなく動いていてアカの事をすっかり忘れていた俺は、その言葉にドキリとした。
何とか平静を保ち扉を閉め、他の話題で杉本の気をそらせようとした努力も虚しく、気味悪がった杉本はさっさと帰ってしまった。
「はぁ~」
杉本を見送った俺は部屋に戻ると、大きくため息を吐いた。
~おじさん。片づけ終わったの?~
いつの間に開けたのか、クローゼットの扉が大きく開き段ボールの上に腰を掛けたアカが話しかけてきた。
「ああ、取り敢えずな」
~良かったね。さっきのおじさんは、おじさんの友達?~
「そうだ。あのな、さっきからおじさんおじさんって。俺は鈴木って言う苗字があるんだ。鈴木さんって呼べ」
~鈴木さん?名前は何て言うの?~
「う・・・・」
なるべくなら名前には触れたくない。墓穴を掘ったか・・・こんな事なら、おじさんで良かったかもしれない。
しかしもう後の祭りである。
「・・御手洗」
~え?~
「御手洗」
~え?みた・・・何?~
アカはわざとらしく手を耳に当てこちらに向ける。
「お前本当は聞こえてるんじゃないか?み・た・ら・し!御手洗だ!」
~みたらし?!ははははっ!!!みたらしだって!!お団子みたいな名前!」
アカはお腹を抱え、足をばたつかせながら笑う。
「ちっ、お前だってアカ何て変な呼ばれ方してるじゃねぇか」
~はははははは!!!じゃあおじさんの事はこれから団子にぃって呼ぶね。団子のお兄ちゃん。おじさんよりマシでしょ?~
目に涙を溜め笑いをこらえながらアカは言う。
「はぁ・・・何でもいいよ。それより、話しの続きだ。お前がアカと呼ばれてる事と、ここはまゆばで生まれ変われる場所と言う事は分かった。次の質問だ」
~いいよ~
アカはクイズでもやっているかのように楽しそうに頷く。
「まゆばとはどんな感じの建物なんだ?昨日、割れた窓から入ったって言ってただろう?」
俺には考えている事があった。それは余りにも非現実的過ぎる事であり得ないのだが。
~まゆばはね一軒のお家なんだよ。凄く古くて、今にも倒れちゃうんじゃないかって思う程古いの。お母さんが言ってたけど、昔々にお婆さんが一人で住んでたんだって。今は誰も住んでないけど~
「・・・成る程、だからお前あの時「こんな汚い所に住んでるの」って言ったのか。で?そのお婆さんの名前は分かるか?」
~知らない~
アカは小さく首を横に振る。
「廃墟・・か。成る程ね。多分だけど、あり得ないけど、信じられないけど、非現実的だけど」
~団子にぃ何回けど、けどって言うの?変なの!ははは!~
「いいか。これは大事な事だ。もしかしたらお前は、過去から来たかもしれないんだ」
~過去?何それ~
「今ではないって事だ。お前の住む世界でここはまゆばと呼ばれる古びた一軒家かもしれんが、今は人が住むアパートになってる。俺とお前とは住んでる時間が違うという事だ」
~ふ~ん。じゃあおじさんは、私から見たら未来の人って事だね?~
「そう。呑み込みが早いな」
~だって最初からそうだろうなって思ってたもん。だからまた来たんだ。未来を見たくてね~
そう言って舌をペロリと出した。
「くっ・・・まぁいい。問題は、何故お前が過去から来ることが出来たのかだ」
~ん~それは知らない。私、黙ってまゆばに入って中を探検してたんだ。そしたら、外が騒がしくなって誰か来たみたいだったから物陰に隠れたの。そうしたらここにいた~
「探検?かくれんぼしてたんじゃないのか?」
~ああ。それは大人に見つかった時にする言い訳。もう一人の私になるためにまゆばに入ったんだけど、何処でどうやったらなられるのか分からないから探検してた~
どうやらこの子供はかなり頭が切れるようだ。なのに何故生まれ変わりたいと思うのか。
しかし自分で言ってはみたものの、本当にこんな事があり得るのだろうか。
過去から来た子供。服装からしても左程古い時代から来たって訳じゃなさそうだ。まず、何年頃から来たのかを知る必要があるかもしれない。
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