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「テレビアニメは何が好きだ?」
~え?アニメ?ん~私、テレビは観ないんだ~
「テレビを観ない?だってお前ぐらいの年だったらアニメとか好きだろう?友達ともそう言う話になる」
~ん~そうかもしれないけど。観ないの。友達ともアニメの話しないし、もししたとしても適当に合わせる事が出来るから大丈夫~
「テレビ観ないで何やってるんだ?」
~寝てる~
「寝てる?!ずっとか?」
~ずっとじゃない。アニメが終われば、本を読んだり漫画描いたりしてる~
「ふ~ん。お父さんとお母さんは何も言わないのか?」
~別に何も言わないよ。お母さんはね~
お母さんはねという所をやけに強めに言ったので
「お父さんは?」
と聞いてみた。
すると、先程まで飄々としていた顔つきに一瞬だけ陰りが見えた。しかしその陰りもほんの一瞬で
~別に何も言わない~
とサラリと言った。
「・・・じゃあさ、お前がなりたいって言うもう一人の私。それはどうしてそう思ったんだ?」
~私にはね、妹がいるの~
「妹?ああさっき言ってたな。九歳なんだろ?ん?アカも九歳で妹も九歳と言う事は双子か?」
~うん。そう。双子だけど私の方がお姉ちゃんなの。妹はね凄く可愛くて、いつも私の後をついて来る~
「可愛いな」
~可愛いよ。私が友達と遊べる時もいつもついて来るんだ。一緒にいたいみたいでいつも遠くから見てる~
「おみそちゃんって奴だな」
~うん。私がなりたいもう一人の私っていうのはね。妹なの~
「妹?」
~うん。ずっと動く事が出来るし、テレビも観られるし怒られないし好きな玩具も買ってもらえるから~
そう言ったアカの目から光が無くなったような気がした。
~だからまゆばに来たの。もしかしたらゆうちゃんや幸恵ちゃんみたいになりたいものになれないかもしれないけど、それでもいい。今の自分じゃなければ~
この子は一体何を考えているのか。それに、こんな小さい子がここまでの事を考える程この子に何があったのか。
足をぶらぶらとさせながら話すアカを俺はジッと見る。
「そうか・・・でも、そのゆうちゃんと幸恵ちゃんだっけ?その二人は本当に犬や毛虫になっちゃったのか?」
~うん。まゆばにはね、一人で入らないと駄目なの。誰かと一緒に入ると、他の人の願いとごちゃ混ぜになっちゃうから。私見てたんだ。ゆうちゃんが一人でまゆばに入るのを。出て来たのは犬だけ。ビックリしてすぐにまゆばに入ったんだけどゆうちゃんいなかった。犬になっちゃったんだよ~
「幸恵ちゃんは?」
~幸恵ちゃんの事は友達の礼二君に聞いた。ウサギになりたいからまゆばに行くって言う幸恵ちゃんについて行ったんだって。やっぱり出て来なかったから礼二君がまゆばの中を探したら大きくて真っ白な毛虫がいたんだって~
「で?幸恵ちゃんはいなくなってた・・・」
~うん。学校でも大騒ぎになったんだ。絶対にまゆばには行かないように!って、先生顔を真っ赤にして言ってた~
成る程、大人達がそれ程までに注意するのを見れば生まれ変われるという噂を子供が信じてしまうのもしょうがないか・・現に二人の子供がいなくなっているし。
しかし現実的にそんな事があり得るのだろうか。まゆばと呼ばれる廃墟に、浮浪者か何かが居ついていてそいつが子供達に何かしたと考えた方がしっくりくる。
「アカはそのまゆばに何回ぐらい行った事があるんだ?」
~毎日~
「毎日?」
~うん。友達と遊び終わってから行くの。先生に言われたら大変だからね~
「妹もか?」
~うん。でも妹は絶対に言わないから大丈夫~
「まゆばに行った時変な大人とかいなかったか?」
~いないよ。まゆばで変な大人にあったのは団子にぃが初めて~
「俺・・・」
もしかしたら、たまたまアカがまゆばに行った時不審者は出掛けていたのかもしれない。
「なぁ。お前、ここから出られないだろ?」
~うん。見えない壁があるみたい~
そう言って小さな手を前に出す。
「でも俺は入れる」
そう言って立ち上がった俺は、クローゼットの中へと入り込んだ。想像以上にヒンヤリと冷たく感じるのは気のせいか。
俺を不思議そうな顔をして見上げるアカを見下ろした俺は
「お前の住んでいる世界に俺は行けるか?」
と聞いた。
~知らない。私もどうやって団子にぃがいる世界に来たのか知らないもん~
「・・・そっか」
少々がっかりした俺はアカの隣に座る。確かこの段ボールは冬服が入ってる。座っても問題ない。
~団子にぃ~
「あ?」
~団子にぃはずっとこの家にいるの?~
「う~ん。ずっとはいない。大学に通っている間だけかな。多分ね」
~・・・そうなんだ。団子にぃも・・~
アカはとても悲しそうな表情になり目を伏せる。近くで見るアカは、真っ白な透き通るような肌でフランス人形のように長い睫毛をしているのが分かる。
「そうがっかりするなよ。お前だって元の世界に帰るだろ?妹も待ってる」
俺はいつの間にか、恐れや恐怖よりも目の前にいる女の子に心を許し始めていた。
~ねぇ団子にぃ~
「ん?」
~一つだけお願いがあるの~
「お願い?」
~うん。あのね・・・~
アカの話の途中で、インターフォンが鳴る。
「あ、ちょっと待ってろ。念のためここ閉めておくからな」
そう言ってクローゼットの扉を閉めながらチラリと時計を見る。午後四時。思いのほか時間が経っていたことに驚き急いで玄関の方へと向かった。
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