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「・・おい・・おい!」 「・・・・・・」 誰かの呼びかけに、俺はゆっくりと目を開けた。 目の前には、俺を心配そうに見るいくつもの顔。大家の日下部と良子婆。そしてコンビニで会った時と同じ格好をした畠山だ。 「あ・・・」 俺はゆっくりと上体を起こす。 「どうしたんだ?凄い叫び声が聞こえて何事かと飛んできたらお前が倒れてて・・一体何があったんだ?」 「ほんとビックリしたわ。私も急いで来たら御手洗君が倒れてるんだもの」 「大丈夫かい?何か持病でもあるのかい?」 目を見開き驚きながら話す畠山と良子婆。驚きながらも優しく心配する日下部。 「あ・・・いや・・・」 自分に一体何があったのか考えるが、頭に靄がかかったようではっきりと思い出せない。 「もしかして、何か夢でも見て叫んだのか?」 「夢・・・」 「お前今日かなり疲れてるだろ。バイト大変そうだったもんな」 「それは・・・そうですけど」 「あ~疲れてる時は悪夢を見やすいかもしれないわね」 「身体の方は本当に大丈夫かい?」 「え?・・ええ」 「そうかい。なら良かった」 「ゆっくり休んで頂戴ね」 「沢山飯食って寝れば悪い夢も見ねぇよ」 三人共それぞれに話、勝手に納得しながら部屋を出て行く。 まだ頭がぼんやりとしている俺は、部屋を出て行く三人の後ろ姿を何も言わずに見送った。 (悪夢・・・?俺・・・) 暫くの間ぼうっとした後、猛烈に喉が渇いている事に気づきゆっくり立ち上がると台所へと行く。冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り、豪快に音ならしながら一気に流し込む。幾筋ものお茶が口の端から流れ落ちる。 「っはぁあああ!!はぁはぁはぁ」 一気にペットボトルを空にした俺は酸素を貪り吸った。 飲んだお茶が身体の隅々まで行き渡り、次第に頭がハッキリとしてきた。 「違う・・・悪夢を見たんじゃない・・いや悪夢だったのか・・・いや違う」 そう呟くと、煌々と明るくなった部屋に視線を移した。心配してきてくれた畠山たちが電気を点けたのだろう。 大きく息を吸い腹に力を入れた俺は、ゆっくりと部屋の中に入る。 見たくはないが確認しないといけない。 そう、全て思い出した。俺は首を吊った男を間近で見たんだ。きっとアレが前住人でここで自殺した男。でもそれは知っていたはず。それを承知でここを借りたのだからそれはいい。そう・・それはいいんだ。いい?・・いや、よくないだろ・・でもまだいいのかもしれない・・俺が驚いたのは・・・ ゆっくりとクローゼットの方へ体を向け首を吊った男が消えているのを確認すると、そのまま視線を下の方へとやる。 (ここに顔があった) だが、当然のことながらその顔は何処にもない。 無かった事にホッとはしたものの、自分が見たものは鮮明に覚えている。子供の様な顔。男の子か女の子かハッキリとは分からない。俺を見上げニタニタと嫌らしく笑った顔。人の口が耳まで裂け、細い三日月を横にしたような形になるのを見たのは初めてだ。 それにあの顔は床すれすれにあった。横になった顔ではなく床から生えているかのように縦に・・・ 「・・・・このクローゼットには一体何人いるんだ?」 開け放たれたクローゼットを見て俺は言った。
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