勘違い

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勘違い

図書館は意外に混雑していた。小さい子供に絵本を読んであげる母親にやたら難しそうな顔をしながら本を読む年配の人。その他は高校生などの学生だ。 「結構平日でも人がいるんだな」 「ああ。それより何を見ればいいんだ?古地図なんか見ればいいのかな」 「ん~分からんが、取り敢えずそれから見て見るか」 天井からぶら下がる案内板を頼りに、目的の本がある棚の方へと歩いて行く。 何かイベントでもあったのだろうかと思う程の人の多さに四苦八苦しながら棚の前にたどり着いた。 「え・・・と、あ、これじゃないか?」 杉本は「昭和25年東京」という見出しが書かれた大きな本を取り出すとその場でペラペラとめくり始める。 俺は首だけを伸ばし隣から覗き込んだ。 「ここに東京タワーがあるから・・・ここから西に・・・・あ、ここだ!」 地図を指でなぞりながら探していた杉本は、トントンと見つけた場所を叩く。 「・・畑・・ただの畑だな」 「他の年代も見てみようぜ」 俺達は手分けして、その場にある東京の古地図を全て見漁った。 あれだけ混み合っていた図書館内から、衣擦れの音や本をめくる音。子供達の声などが聞こえなくなってきた頃、全ての地図の確認が終わった。 「目がちかちかする」 「目薬欲しい。頭も痛くなってきた」 俺達二人はため息をつきながら図書館を出た。 「結局あの場所は畑だったって事しか分からなかったな」 「ああ。畑なら別に曰くなんかないだろうし、土地は関係ないのかな」 「もしかしたらさ、その自殺した男が呼んでるのかもよ」 「何を」 「別の幽霊を」 「は?幽霊ってそんな事すんの?」 「よく分かんないけど良く集まるって言うじゃん。ジメジメした所とか廃墟とか」 「廃墟・・・」 杉本の何気ない言葉に、俺はある事を思い出した。 「アカっていう子供の話し教えたよな?」 「ああ。まゆばに来てもう一人の私になりたいって言う子供の事だろ?」 「そのまゆばなんだが、アカがいる世界では廃墟なんだ。昔はお婆さんが一人で住んでいたらしい」 「は?それはないだろ。さっきの地図では畑が広がっていただけで、他には何もなかったような・・」 「アカが言ったのは窓が割れている事。昔一人のお婆さんが住んでいた事。物陰に隠れた事。この三つがまゆばに対しての情報だ」 「ああ」 「この三つから俺は勘違いしたんだ」 「勘違い?」 「普通の家だという勘違いだ」 「・・・じゃあ、まゆばは家じゃなくて・・・」 どうやら杉本にも分かったようだ。 全ての古地図が畑を示していたのにもかかわらず、昭和35年の古地図には畑の中に、あるマークがポツンとあった。 ソレは倉庫の地図記号。 住宅だろうという思い込みから、俺達は関係ないとスルーしていた。 「昭和35年のあの場所には倉庫が建っていた。という事は、アカは昭和35年から来た子供の可能性があるという事か」 「ああ。昭和35年というと、今は令和4年だから・・・その年に生まれた人は61か62歳位。余裕で話を聞ける年齢だ」 「だな。じゃああの辺りの年配の人に聞き込みしてみるか?」 「うん。行こう」
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