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不可解な死
「なんです?」
「よりちゃんが井戸に落ちた事で、自分も怒られるんじゃないかとびくびくしていたわしは、蜂の巣をつついたように騒いでいる大人達の様子を押し入れの中からじっと見守っていた。子供というのは叱られると思うと隠れるんだな。その時に大人達の会話が聞こえてた。それを聞いたわしは飛び上がるほど驚いたよ」
「何て言ってたんですか?」
「あの井戸には鉄の蓋がついていて、それを子供が開けるなんて不可能だってね」
「鉄の蓋・・」
お爺さんは頷くと
「わしとよりちゃんで初めてあの井戸を見つけた時は、鉄の蓋なんか何処にもなかったんだ。ぽっかり空いたままになってた」
「いなくなったよりちゃんが見つかった時、鉄の蓋はあったんでしょうか」
「あったらしいよ。しっかり井戸を塞いでいたという。大人四人がかりでようやっとどかしたと言っていた。驚いたわしは親戚のおばさんに聞いたんだ。その鉄の蓋はいつも井戸の上にあるのかってね。誰かがどけたりはしないのかって・・・そうしたらおばさんは「あの井戸なんか使う人なんていないから、絶対にどかすはずがない」って言った。でもあの時の井戸の上には本当に・・本当に何もなかったんだ」
「・・・・・」
どう言う事なのだろうか。たまたま誰かが開けたという可能性も捨てきれないが、枯渇した井戸に何の用事がある?それに大人四人がかりで動かすような蓋。もし誰かが開けたとしても最低四人は大人がいなきゃ駄目な事になる。誰が開けたのか。それに、よりちゃんが間違って落ちたとしても、その蓋を誰が閉めたのか。
「よりちゃんの葬式はひっそりと行われたよ。まるで世間の目を避けるようにね。当然わしも参列したが、よりちゃんに最後の挨拶は出来んかった。と言うよりさせてもらえなかったんだ」
「何でですか?一番の親友だったのに」
「よりちゃんの遺体の損傷がひどかったかららしい。これは何年か経った後に聞いたんだが、井戸からよりちゃんを引き上げた時よりちゃんの首がもぎれていたそうだ」
「・・・首が」
「それと、身体には一滴の血も残っていなかったそうだ」
「・・・・・・・」
温かい部屋の中のはずなのに、冷蔵庫にでも入っているかのように寒くなって来る。
お爺さんはすっかり冷めてしまったお茶をゆっくりと啜ると
「あんた達は、あの場所の事を知りたいだけだったんだろう?」
「え?」
「この辺りの町の移り変わりなんて大層な理由をつけても無駄だよ。誰だってあそこを見れば不思議に思うさ」
どうやら全てお見通しだったようだ。
「すみません。実は俺・・僕はあそこにあるアパートに最近引っ越してきまして。ちょっと部屋の中で色々おかしな事があったものですからその・・・」
「ああ。あそこのアパートね。あそこは一族しか住めないはずなんだが、あんたは親戚かなにかかい?」
「一族?」
「そう。アパートの大家は確か・・日下部さんだったかな?」
「はい」
「その奥さんと息子と娘。四人しかいないと聞いているが」
「え・・ちょっと待ってください。確かに日下部さん以外、お婆さんと中年の男の人と女の人が住んでますけど・・・あの人達家族なんですか?!」
「そう聞いてるがね。日下部さんはわしの一個上の学年。左程仲良くはなかったが・・特殊な人だからね。噂は色々耳にしていたよ」
「特殊?」
「日下部さんというより、日下部家が特殊と言った方がいいか。あそこの土地は全て日下部家所有の土地なんだ。昔は畑を人に貸したりしていたが、年月が経つにつれてこの辺りの開発も進んでくる。畑ではなく住宅や商業施設が次々と建っていった。勿論、日下部さんの土地も売って欲しいといくつもの業者が訪ねて行ったそうだ。しかし日下部家はかたくなに土地を売らなかった」
「どうしてでしょう」
「呪われた土地だからさ」
「呪われた土地・・・」
「そう。日下部家は、代々あの呪われた土地を守る呪われた家柄なんだよ」
「・・守るって・・呪われた土地をどうして守らなくちゃいけないんですか?」
「ん~詳しい事は分からないけど、昔近所の婆ちゃんがちょろっと言ってたが・・・」
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