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井戸に落ちた姉妹
大栗さんの家を後にした俺達は(玄関に表札があった)そのまま家に帰る気になれずぶらぶらと歩きファーストフード店に入った。
もう辺りは真っ暗で時刻は八時を回っている。
席に着き、二人黙ってハンバーガーにかぶりつく。
賑やかな店内。店員の元気な声が客を迎え、おまけがついて来る玩具を嬉しそうに選ぶ子供の声が聞こえる。まだ家に帰りたくない女子高生達がはしゃぎながら噂話する声を聞きながら、男二人黙々と目の前にあるハンバーガーセットを平らげていく。
「なぁ」
最初に口火を切ったのは杉本だった。
「ん?」
残りのシェイクを一気に飲み干した俺は短く返事をした。
「大栗さんの言ったこと本当かな」
「うん・・・でも俺達に嘘つく理由がないよな」
「そうだよな。って事は本当だって事か・・・今の時代呪いだとか祟りだとかってネットや漫画の世界の事だと思ってたけど現実にあるもんなんだな」
「実際俺は視てるしな」
「ああ、子供の霊な。大栗さんの話だと昔畑の中の井戸が使われていた時、畑仕事に出ていた両親について来た子供が落ちた・・それも姉妹二人一緒に」
「ああ」
「その後井戸から夜な夜な姉妹の鳴き声が聞こえるようになった。周りの人達は気味悪がって井戸を塞ぐが泣き声はやまない。そんな時、当時拝み屋をやっていた日下部家がその井戸を封印したのが始まりで、それ以降日下部家はその土地を守る役目を果たしてきた・・・」
「ああ」
俺は、段ボールに腰かけ可愛い目で俺を見上げていたアカの事を思い出した。
アカは事故で死んだのか・・・・いや確かに妹がいるとは言っていたが、井戸に落ちたのがアカ姉妹とは限らない。
「何かよく分からなくなってきた・・アカは・・アカは幽霊だったのか?あんなにハッキリ見えて会話までしたんだぞ?それに本人はまゆばに探索に入って人が来たみたいだから隠れたらここにいたって言ってた。あり得ないかもしれないけど、世の中にはそう言う不思議な事ってあるんじゃないかな」
「・・もしかしてお前。過去から来た子供なんて事考えてないよな」
「違うのか?」
「あほか。そんなことある訳ないだろう。まだ幽霊が出るって言ったの方が現実味がある」
「そ・・うか」
「とにかく、日下部さんにお前が視たものを話した方がいいぞ。自殺した男の霊は分からないけど、子供の霊は何とかしてくれるかもしれない。自分の部屋に何人も幽霊がいたらたまったもんじゃないだろう。一人で十分だ」
「・・そうだな」
そう返事をしたものの、正直俺は迷っていた。
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