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~骨を見つけて欲しい~ そんな衝撃的な事を頼まれてから一カ月が経とうとしていた。 アレ以来、アカは俺の前に姿を現さなくなった。あの首だけの子供も・・・ 「おい御手洗。大丈夫か?」 大学での昼休み。 学食で頼んだカレーライスを目の前にスプーンを持ったままぼうっとしている俺を、心配そうに覗き込みながら杉本は言った。目の前に座る杉本の前には、豪快に盛り付けられた焼肉定食が食欲旺盛な杉本により終わりを迎えようとしている。 「あ・・ああ、何が?」 「何がって。全然食ってないじゃん。腹痛いのか?」 「いや・・」 「・・・やっぱお前おかしいよ。あのアパートやめといた方がいいんじゃないか?」 「・・・・・」 「見た目にも痩せてきたの分かるし、目の下のクマも濃くなってる。悪い事言わないから早く引っ越せよ」 「引っ越す・・・」 簡単に言ってくれる。 実家から大学に通える杉本はいい。仕送りがあるとはいえ、経済的事情を抱える俺にとっては簡単には引っ越す事は出来ない。 「あのさ」 「ん?」 「相談に乗ってほしいんだ」 「引っ越しのか?」 「違うそうじゃない。実は・・・」 俺は、一カ月前アカから頼みごとをされた事を杉本に話した。 「骨?骨を見つけて欲しいって?」 「ああ。ソレが俺の部屋にあるらしいんだ」 「おいおいマジかよ」 「多分」 実際俺も半信半疑だった。本当に骨なんかがあの部屋にあるのか。だが、これまでの経緯を考えてみると嘘ではないような気がする。 「・・・骨・・・あの大栗さんの話だと、あの土地にあった井戸に幼い姉妹と友人のよりちゃんが落ちて死んでるけど・・よりちゃんは引き上げられてるだろ?首がない状態だったって言ってたし。その前の姉妹だってきっとそうだ。」 「・・・だよな」 「でも骨を見つけてくれって言うんだろ。友達の」 「ああ」 「天国に行かせたいって言うんだろ?」 「ああ」 「ん~~~」 杉本は箸を置き頭を抱えた。 「日下部さんにさ」 「ああ!そうだ。言ったのか?部屋に幽霊が出るって」 「いや・・・言えなかった。それより気になる事があって」 「気になる事?」 「あの時お前と別れた後、真っ直ぐ日下部さんの家に行ったんだ。お前の言う通り話した方がいいのかなって思ってさ。その時見たんだ。日下部さんが祭壇に向かって拝んでいる姿を」 「祭壇?仏壇じゃなくてか?奥さんのとか・・」 「仏壇じゃない。確かに祭壇だった。しかもその祭壇の前に写真があって、その写真にアカが写ってた」 「は?」 「日下部さんはアカと関係があるのかもしれない」 「じゃあ話は早いじゃん。日下部さんにその事を話して見ろよ。ついでに骨の事も」 俺は小さくため息を吐きくしゃくしゃと頭をかくと 「俺もそう思った。でもなんとなく・・・なんとなく言わない方がいいような気がして。だからまだ言ってない」 「何で?日下部さんは拝み屋一族なんだろ?話して、お祓いでもしてもらえばいいんじゃないか?一番の解決方法だと思うがな」 「うん・・・」 なんて言ったら伝わるのだろう。ハッキリ言って自分でも何故日下部に言わないのか分からない。どうして躊躇するのか・・・ 言葉もなく考え込む俺をジッと見ていた杉本は、盛大にため息を吐くと 「分かったよ。手伝ってやるよ」 「え?」 「そのアカって子供の正体は分からないけど、話だけ聞いてると別に悪い者じゃなさそうだ。骨を見つけるって言う理由も供養してやりたいって言うんだろ?だったら、さっさと骨を見つけて供養して、そしてお前は何の気兼ねもなくあの部屋に暮らす。これで全て丸く収まる。ただし!」 杉本はピンと立てた人差し指を自分の口元に持って行くと 「俺が手伝ったという事は誰にも言わない事。面倒な事には巻き込まれたくない」 しっかりした杉本らしい発言だ。 確かにアパートから骨が出たなんて事が世間に知れ渡れば大変な事になる。もしかしたら俺が疑われかねない。 果たして、この決断が正しい答えなのかは分からない。分からないけど今はやるしかないような気がする。じゃないと何も終わらないような感じがしてしょうがない。 「分かった。約束する」 そう言って頷くと、すっかり冷たくなったカレーライスを一気に頬張った。
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