手紙

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手紙

次の日。俺達は早速決行した。 「どんな物が必要か分からなくてさ。家にあるやつ片っ端から持って来た」 そう言って、登山でもするのかというぐらいの大きなリュックをどさりと玄関のたたきに置いた杉本は俺を見てニヤリと笑う。 昨日散々迷い考え眠る事も出来なかった俺だったが、そんな杉本を見て心強さを感じた。 「取り敢えずあっちの部屋から見て見よう」 俺と杉本は、八畳の部屋から探す事にした。 リノベーションされたばかりの部屋は真新しい畳が敷かれている。部屋にある少ない家具をどかし、一枚一枚畳を上げていく。 八枚の畳を全て剥がし、むき出しになった床板を目の前に俺達は無言で立ち尽くす。 (この下に本当にあるのだろうか・・・) 「さ、やるか」 杉本の号令で、床板をはがす作業を開始された。 杉本が持って来た釘抜で次々と釘が抜かれ床板が外される。一枚一枚外していくごとに、土の匂いと湿った空気が立ち昇って来る。 「なんだ、板を外すと直ぐに地面なんだな」 「木造の古いアパートだからな。鉄筋のアパートなんかは大体基礎打ちして発泡スチロールの上に畳があったりする」 「ふ~ん」 「それにしても凄い湿気だな」 「ああ。お前、懐中電灯とか持って来た?」 「ああ、あるよ」 杉本は大きなリュックをガサゴソと漁り、ペンライトぐらいの懐中電灯を出して渡してくれる。 「サンキュー。ちょっと見て見るわ」 俺は腹ばいになり床下に頭を入れ逆さまに覗き込むとライトで照らす。床下に頭を潜らせたことで、冷えた空気が俺の顔を瞬時に冷やした。 「どうだ?あるか?」 「ん~ちょっと待て・・・あ」 「どうした?あったか?」 「変な物がある」 「変な物?」 床下から顔を出し 「アッチら辺。なんか丸いものがあるぞ」 窓の近くを指さし言った。 「丸い物・・頭蓋骨かな」 気味悪そうに言いながらも杉本は、俺が指さした場所の床板の釘を抜き始める。すぐに俺も杉本が釘を抜いた床板を外しにかかる。 「あったぞ」 「どれどれ」 ぽっかりと空いた穴の中を懐中電灯で照らすと、そこには焦げ茶色の丸い物が半分だけ土の中に埋まっているのが見える。 「何だこれ・・・」 杉本は腹ばいになり床下に両腕を伸ばすと、その焦げ茶色の何かを彫り起こし始めた。 「結構・・・土が硬くて・・・御手洗。リュックの中のスコップ取ってくれ」 「分かった。スコップまで持って来てたのか」 「用意周到だろ?」 リュックから取り出したスコップを渡された杉本は、ザクザクと掘り起こし作業を進める。 「出た」 そう言った杉本は、蛸壺の様な形の壺を両手に持ち体を起こした。小さな取っ手のついた蓋がされているが、壺全体がグルグルと何重にも細い縄で巻かれている。蓋が開かないようにする為なのか。それとも別の意味があるのか。どちらにしても、ふざけ半分で開けていいものではないという事は分かる。 「何だこれ・・」 「俺、これと同じ様なの見たことある」 「マジで?」 「ああ。おじさんが亡くなった時に見た。これ多分骨壺だよ」 「骨壺?」 葬式をまだ経験した事のない俺は、骨壺というものがあるという事は知っていたが見たのは初めてだ。 「骨壺って・・火葬した後に骨を入れるアレか?」 「ああ・・・開けてみるか?」 真剣な表情の杉本だが、その目の奥には怯えや恐怖の色が見え隠れしている。 俺もきっと同じ目をしてるだろう。ゴクリと唾を飲み。 「ああ」 と短く返事はしたものの、中々手が出ない。気味が悪いのだ。 「いいか?開けるぞ」 杉本も俺と同じ気持ちらしく何度も確認した後、意を決したように壺をグルグルと巻いている縄をゴリゴリとカッターで切り始めた。 縄というものは濡れると強くなる。 壺に巻かれていた縄も例外なく、土の中に埋められていたお陰か湿り気のある丈夫な縄になっていて中々思うように切れない。 「あ~手が痛ぇ。ちょっと代わって」 「分かった」 杉本が半分ぐらい切った縄を引き続き俺が切り始める。本当に手強い。まるで鋼にでも刃をあてているようだ。 カッターを握る手が限界が来る頃、ようやく縄が切れた。 「よし。じゃあ開けてみろ」 「は?俺?」 「当り前じゃん。お前の部屋にあったものだぞ。お前が開けるに決まってる」 どんな理屈だよと思いながら、俺は蓋を開けた。 「・・・手紙?」 中を覗き込むと、色が変色した紙が何枚も入っている。 「は?手紙?どれ」 入っていた物が骨ではないと分かると現金なもので、杉本は壺を自分の所に引き寄せ中から一枚の紙を取り出した。 「随分古そうな紙だな」 手紙と言っても四つ折りにおられただけの紙。封筒に入っている訳ではない。 ぺりぺりと音をたて慎重にゆっくりと広げていく。 「何か書いてあるのか」 「ああ・・・もうほとんどかすれちゃって見にくいけど・・・ちゃん。元・・・ごめ・・」 「は?何だそれ」 「読める所がそこしかないんだよ」 「他のも見て見ようぜ」 二人で手分けして、壺の中に入っていた手紙を何とかして読もうとするが全ての手紙は長年の劣化と湿気により殆ど解読不可能だった。 「でもさ、何となくだけど「~ちゃん」とか「~君」とか書いてあるし、敬語が使われてない所を見ると、親しい友人とかに宛てた手紙のような気がするな」 「ああ。これ、一枚だけ何か模様が書かれてるのもあったぞ」 「子供の悪戯書きじゃないのか?それにしても、骨じゃなくて手紙か。本当にアカはこの部屋にあるって言ったのか?」 「うん。言ってた」 「じゃあ、あるはずだよな」 「しらみつぶしに探すしかないな」 「よし!俺に良い考えがある」 「何?」 「お前、床下に潜れ」 「は?床下に?」 「そう。だいたいこういう古いアパートの床下は全て繋がっている事が多い。だから、ここから潜って這いずり回れば簡単に見つけられるはず。最初からそうすれば良かったんだ」 「・・・・・・」 「何だよその嫌そうな顔は」 「俺・・・虫苦手なんだよ」 「は?虫とこれからの安定した生活どっちとるんだ?虫は一時!安定した生活はこれからずっとだぞ?」 「・・・・分かったよ」 確かに、やらなきゃ終わらない。 ジメジメとした黒い土がむき出しの床下をしばらく見つめた俺は、大きく息を吸い込むと覚悟を決め足からゆっくりと床下へと潜って行った。
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