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警告2
玄関を開けると、意外な人物が立っていた。
103号室に住む瞳だ。
相変わらず、長い黒髪が顔にかかり陰気な雰囲気を放ちながら俯き立っている
「あ・・・」
予想もしていなかった人だけに、咄嗟に言葉が出ない。
「・・・・・・・」
訪ねてきた瞳も、ただ俯き立っているだけで何も言わない。
「え・・・と・・瞳さんでしたよね?あの・・何か?」
「・・・・・・」
瞳は黙っている。
「あの・・・」
妙な来客にどうしていいのか分からず困っていると
「逃げた方がいい」
と瞳は言った。
「は?」
「速くここから逃げた方がいい」
「あの・・前にもそんなこと言ってましたけど、逃げた方がいいってどう言う事ですか?」
焼き肉会の時、一切喋らず黙々と食べる事だけをしていた瞳が唯一放った言葉が「逃げた方がいい」だった。その後瞳は直ぐに部屋の中に入ってしまったので、その意味を聞く事が出来なかった。
俺は、同じ言葉をオウムの様に繰り返し言うだけの瞳を見た。
顔もあげず黙り込む瞳。
「瞳さん?」
そう言って俺が瞳に少し近付いた時だ。
瞳は長い髪を揺らし自分の部屋の方へ行こうとした。
「ちょ、ちょっと待って!」
咄嗟に俺は瞳の腕を掴む。細くて華奢な腕。
腕を掴まれた瞳は驚くように振り向き俺の顔を見た。
今まで顔を隠していた長い髪が揺れ、顔が露になる。
その顔を見た瞬間言葉を失った俺は、掴んでいた腕を離してしまった。掴まれた腕を庇うようにして触る瞳はまた俺から顔をそらし
「今日中に出た方がいい。明日になったら何もかも終わる」
そう言い残し足早に歩くと103号室に入って行った。
「・・・・・」
何故逃げた方がいいのか。何故何もかも終わるのか。何も聞く事も出来なかった俺は、暫くの間呆然とその場に立ち尽くした。
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