17人が本棚に入れています
本棚に追加
その次の日の朝。
バイトが休みだという杉本が手伝いに来てくれる日。つまり今日。朝目が覚めるとすぐにクローゼットを開けた。
「いない・・・」
クローゼットの中には、開封を待つ段ボールが二つあるだけ。
「一体何だったんだ?」
もしかしたら、自分でも気がつかないうちに疲れがたまっていてそのせいで幻覚を見たのだろうか。
何となくスッキリとしない頭を振りながらクローゼットを閉めると、顔を洗う為洗面所へと向かった。
顔を洗い始めると、部屋の方から微かに携帯の音が聞こえる。
慌ててタオルで顔を拭きながら部屋に戻り携帯に出る。杉本からだ。
「あ~起きてた?」
「ああ」
「今日何時に行けばいい?」
「あ・・えっとなるべく早くがいいかな。いろいろ買いたいものがあるんだ」
「買いたいものって何」
「ん~棚とか、小さい箪笥とかテレビを置く・・・・」
俺はそこで言葉を失った。顔を拭いていたタオルがハラリと足元に落ちる。
「ああ、そういう物ね。じゃあ軽トラで行くわ。親父の借りて行くよ」
「・・・・・・・」
俺はあるものに目が釘付けになり言葉が出ない。
「もしもし?」
「・・・なんで・・」
「は?もしもし?お~い聞いてるか?」
「あ・・ああ。頼む」
俺はそれだけ言うと電話を切った。
携帯を握り締めたまま俺は目が離せなくなっている方へと歩いて行く。さっきちゃんと閉めたはずのクローゼットが指三本分ぐらい隙間が開いているのだ。
「俺・・閉めたよな・・」
咄嗟にあの女の子の顔が頭に蘇る。
そっと扉の端に指をかけゆっくりと開ける。
~あ、おじさん~
聞き覚えのある子供の声が飛んできた。
段ボールの上に腰を下ろし、スカートから伸びる細い両足をぶらぶらとさせてこちらを見上げている。心なしか嬉しそうだ。
「お前・・・」
~また会ったね。おじさん~
女の子はニコリと笑いながら言った。
「また会ったねって・・お前いつ入ったんだ?」
~いつって・・さっき~
「さっき?俺が見た時いなかったぞ?それともどこかに隠れてたのか?」
~隠れてなんかないよ。そこの窓から入ってこの中に入ったの~
と、前回の様に窓の方を指さして言う。
「窓・・・」
そう言いながら俺は窓の方を見ようとしたがすぐにとどまる。目を離したすきに、又女の子がいなくなるのではないかと思ったからだ。
(大丈夫。窓は割れてない・・・はず)
そう自分に言い聞かせながら俺は女の子の前にしゃがみ込み
「いいか。よ~く聞け。今からお前にいくつか質問するからな」
~うん。いいよ~
「まず、お前は何処のどいつだ?」
~私?私はアカ。おうちはここから少し離れた所~
「アカ?それが名前か?」
~名前じゃないけど、皆がそう呼ぶの。それにね、お母さんから言われてる。知らない人には自分の事言っちゃ駄目よって~
人の家に勝手に入る割には、不審者に対しての教育がちゃんとされているようだ。
「まぁいいや。じゃあアカ。どうしてここにいるんだ?」
~どうしてって。前に言ったじゃない?友達とかくれんぼしてるって~
「今もしてるのか」
~今はしてない~
「じゃあどうしてここにいる?」
~ここにいると、おじさんに会えるから。それにね・・・~
アカは俺の後ろ側。部屋の中を珍しそうに見渡しながら
~ちゃんとしたお部屋になってるのをもう一度見たいと思ったんだ~
「は?」
言ってることが分からない。
「ちゃんとした部屋って、当り前だろ。俺が住んでるんだから」
~違うよ。ここは「まゆば」っていう所なんだよ?~
「まゆば?何だそれ」
~知らないの?まゆばを知らないの?~
アカは大きな目をさらに大きくして驚き声を上げる。
最初のコメントを投稿しよう!