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変わらない世界
ひと月前、僕は自殺を図った。理由なんて特にない。いじめがあったのかとか受験戦争に疲れたのかと問われたが、そんなものではない。ただ、なんとなく。そう、ただなんとなく疲れたのだ。つまらない毎日、同じことを繰り返すだけの毎日に。
そしてあの日、僕は風邪をひいて学校を休んでいた。父親は仕事で、母親も心配そうにしていたけれど結局は『大丈夫』という僕の言葉に、薬と昼食を置いてパートへ出ていった。
静かな部屋の中。今ごろはみんな、学校で賑やかに過ごしているのだろうと思うと、急に世界から取り残されたように感じた。いつもは僕もその中にいるのに、同じことをして同じことを思う友人たちの中で笑っているのに、僕なんていなくてもそこに何も変わりはないのだなと思ってしまった。
あぁ、虚しいな。
ぽつりと浮かんだその思いは、時間とともに大きく膨れ上がる。
風邪が治ればまた明日、同じように学校へ行く。僕なんていてもいなくても何ひとつ変わることない場所へ。明日も明後日も、毎日毎日、同じ日が続くだけ。
虚しい。寂しい。
あとで思い返すと、体調が悪くて気分も落ち込んでいたのだろう。だけどこのときの僕は、心底そう思ってしまった。
僕がいてもいなくても変わりのない世界。だけどもしも今、僕がいなくなれば、世界は何か変わるのだろうかと。
両親はきっと悲しむだろう。それは素直に申し訳ないと思う。
だけど友だちやクラスメート、先生が僕のために泣いてくれる光景を想像すると、少しそれは嬉しかった。退屈でつまらない毎日を送る僕が、みんなの毎日の中に変化を起こす。死というインパクトをもって。きっとこのまま過ごして卒業するよりも、僕のことを覚えていてくれるだろう。
大人になっても平凡に埋もれていく僕よりも、記憶にだけ残る僕の方がキラキラと輝いているように思えた。虚しい毎日より、そこから抜け出したいと思ってしまったのだ。
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