契約結婚から真実の結婚へ

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結局のところ、ジェインは方々で散々に惚気を暴露している。それが色々な雑誌で記事となり、最後には 『溺愛CEOは、かつて遠恋だった子ネコちゃんと甘々な結婚生活を満喫中!!』 『二人の間に入る隙間すらないラブラブな夫婦』 『惚気ばかりのCEOは自分の奥さんしか目に入らない様子』 などと書かれる始末。 そして、日本へと帰国すると、やはり真っ先にメディアに登壇し、大々的に自分の会社や妻の話をばら撒いた。自社の展望、そして枠組みにとらわれない広い視野、さらに広く目を向けてみれば、日本のこれからの在り方やあるべき姿。経済から政治まで、難なく自論を展開していく。 だが、最後には必ず。 「はあ、まだ終わりませんか? すみません、この取材が終わったら、妻と待ち合わせしてデートに行くんです。もう今から楽しみでしょうがない」 「あらまあ、噂に違わぬ愛妻家ですねえ。けれど、別居というわけでなく、ご一緒に住んでいらっしゃるのでしょう? 毎日、鼻先をつき合わせているんだから、少しは息抜きしたいと思われませんか? 私なんて、今の旦那なんて、居ても居なくてもどっちでも良いっていうか。定年が来て旦那と二人きりになると思うと、今からぞっとしますよ」 ふふと笑いながら、女性記者が流し目で言った。 が。 「え⁉︎ 二人きりだって⁉︎ それって最高ですよね? そっか。忘れていたけど定年後は壱花とずっと一緒にいられるのか! 教えてくれてありがとう! 今からの楽しみができました!」 「え? と……はあ」 「帰る家は一緒なんですけど、うちの壱花は『J-planning』や『SOT』で大人気のイラストレーターだから、皆がなかなか定時で帰らせてくれないんですよ。だから、平日は一緒にいる時間が削られてしまってね。それが悲しくてしょうがないんだけど、定年! 定年かあ。定年ねえ。早めに辞めちゃおうかな」 「えっと、え? ……はは。それは面白いジョークですね……それはそうと、では奥さまもお忙しい方みたいですね?」 「そうなんだよ。皆が俺の壱花をなんやかやと言っては懐柔しようと……や! こうしちゃいられない! 申し訳ないが、これで取材は終わりでもいいかい? 妻に花束を買う予定だったんだけど、なにかプレゼントも買っていこうと思う。今日はね、新規の仕事を受けていて、挨拶に行っているはずなんだ。もし誰かに言い寄られていたらいけない。プレゼントで壱花の気を引かなくちゃ!」 「…………」 「ちなみに女性は何をプレゼントされると嬉しいのかな?」 「ああ! もちろん花束とお気持ちだけで十分ですけど、たとえばバッグやジュエリーのプレゼント、女性なら誰しも嬉しいんじゃないでしょうか。私ならジェインさんのようなステキな方からいただけるなら、どんな種類のジュエリーでも嬉しい限りですわ」 「そう? そっかなあ……とは言ってもだね、うちの壱花はちょっと変わったところがあるから、いつも俺では思いつかないようなものを欲しがるんだよね。先日贈った誕生日プレゼント、シイタケの栽培セットだったんだけど、次は何が欲しいって言い出すと思う?」 「……はあ。干しシイタケを作る網ですかね?」 「干しシイタケ? の網? うん! それだ! 間違いない! 買いに行こう!」 こんな調子で、だいたいの取材は惚気で終わってしまう。そうこうしているうちに、毎回妻がどれだけ可愛いのかを力説していて、面白みが無いのか、取材の依頼も来なくなっていった。 全国に、いや全世界に鉄壁の愛妻家として名を馳せてしまったのだ。 杏の一件があってから、スキャンダルのスの字も出たこともない。近づいてくる女性は、その芽ごと握り潰して、一掃してしまう。その為には躊躇なく、取引先ともばっさり手を切ってしまうのだ。 その冷酷さから、IT業界では、cold‐hearted(冷ややかな)オオカミと呼ばれる羽目になる。 ……のだが。 「壱花ちゃーん!」 ジェインが花束を抱え直し、小走りに走っていく。 その先には、仕事を終えてひと段落した、壱花の満足顔。手を振る。 「ジェインさん! 今日もお疲れ様です!」 「お疲れ様! はい、これ!」 花束だ。 「わあ綺麗ですね。いつもありがとうございます!」 「花束、すっごく似合うよ! 俺の壱花は世界一可愛い!」 そして、ポケットの中にある干しシイタケの網をいつサプライズしようかと、わくわくしながらジェインは壱花を抱き締め、優しくキスをした。 第2部 完 長きに渡りお付き合いくださいましてありがとうございます。 これで完結です。 毎日、地道に書いてきましたが、読んでくださるだけでもありがたいのに、本棚に入れてくださったり、スターやスタンプをくださったり、本当に励みになりました。 このストーリーを気に入っていただけましたら、『金持ち社長の唯一無二には極貧少女は届かない』『チャラくてナンパな代表取締役は唯一無二を欲しがって』が近いかなと思いますので、お時間がありましたら、お読みいただければ幸いです。 改めまして、本当にありがとうございました。心から感謝を申し上げます。                 三千
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