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甘あま溺愛と驚きの中の壱花
インターホンを押すと、ピンポンと音が跳ねた。気がした。
(はああ! インターホンの音まで可愛いなおい)
草壁 ジェインはここに来るまでの間、すべてが可愛く愛おしく思えて仕方がなかった。道中、色々なものを目にするだけで、気持ちが昂ってくる。それは今日。ずっと仕事以外で会えずにいた柊 壱花にようやく会えるからだ。
『はいお待ちください』
ジェインは持っていた花束を後ろ手に隠すと、ドアが開くのを待った。
(あーー壱花ちゃんに会えるの、マジで嬉しい)
多忙だった。起業はそんなに楽じゃない。わかってはいたが、最愛の壱花を放っておくしかできないほど、目の回るような忙しさだった。
自分の目が届いてない隙に、誰かに横取りされるのではないかという不穏な考えが何度もよぎる。例えば、もう付き合ってはいないとはいえ、元彼の和田 弥一とは、会社も同じだ。直ぐにも会える距離。けれど、そこに手を回す余裕もなかった。
「でも、俺ももう名古屋だもんね! それにヘッドハンティング受けてくれて壱花ちゃんと同じ会社になったし、毎日壱花ちゃんに会えるって、最高! 会社作った甲斐があったってもんだ」
すでに壱花は、ジェインが興した『J-Planning』にて、働き始めている。社長のデスクから、ちらーちらーと壱花を眺めていて。毎日がうきうきしていて、世界が輝いてみえた。
ガチャと音がした。壱花が細く開いたドアから覗いていて、
「おはようございます。私も、その……毎日が、さ最高です」と言う。
その小動物のような姿に、きゅうんときて、ジェインは悶絶しそうになった。
「おはよう、俺の壱花! ああ、朝からごめんね。どうやら心の声がだだ漏れてたようだ。でもまあこれが俺の本心だし、壱花もそう思ってくれてるなら、それだけで最高の気分だよ!!」
はいどうぞ、そう言って差し出したのは、ピンクのガーベラを集めた可愛らしいブーケ。
「わあキレイです! ありがとうございます」
花束を抱きかかえるその指には、ちゃんとプロポーズし贈ったリングがはまっている。それだけでも満足なのに。
花束を贈っただけで、壱花のこの嬉しそうな笑顔!
(可愛い可愛すぎる!)
「ちょおーっとごめん」
あげた花束をまた取り上げて、片腕で抱き寄せた。ガサガサと包装紙の掠れた音が玄関に響く。満足いくまでぎゅうと抱き締めてから、また花束を渡した。
「あー会えて嬉しいよ!」
ピンクのガーベラに負けないくらい明るい、淡いオレンジ色のスカート。オフホワイトのハイネックのニット。首元には可愛らしいリボンがあしらってある。
この前までは、全身真っ黒なおにぎり娘だったのに。
その壱花の明るい方向への変化に、じわじわと嬉しさがこみ上げてくる。
「壱花、すごくすごく可愛いよ」
そっと近づいていって、頬とおでこにキスをした。ふわりと香ってくるのは、優しい石けんの匂い。きっと自分が来る前に、身綺麗にしようとしてシャワーを浴びていたのだろう。
そう考えるだけで、どくっと胸が鳴った。
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