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「はあぁぁ〜あ、壱花ぁ」
ドアを開けて中へと入り、玄関でぎゅっと抱きしめた。
「堪能〜〜」
そろりと背中に回る細い腕。自分だけが求めているのではない。ようやく求められるようになった。
身体を離した手で、今度は壱花の頬を包み込む。むぎゅっとなっているほっぺがたまらなく可愛い。そして、その見上げてくる漆黒の瞳。出会った頃となんら変わらない。まるで宝石のようだ。
唇にキス。一度キスをしてしまうと、欲が止まらなくなる。右腕を背中に回し、引き寄せた。身体がくっつき、壱花の体温と息がぐっと近づいた。
「んんぅ、」
漏れる吐息も口に含んだ。腕に力を込めれば、当然合わせている唇も深くなる。そうなるともう次には舌を入れたくなって、このままではヤバイと思い、腕を解いた。
「はああ。まじで嬉しい。俺の壱花ちゃんは、最高に可愛い!」
明るく言った。どうしようもない欲情を隠すために。
「ちょっとお邪魔していい?」
「もちろんです! どうぞお待ちしてました」
キスしたからか、頬が紅潮している。そんなほっぺをさすさすとさすりながら、壱花は部屋へと入っていった。その後ろ姿を見つめながら、靴を脱ぐ。壱花を抱き締めるために足元に落としておいたカバンを拾い上げ、そして部屋へと入った。
今日持ってきた話は、壱花にとっては信じ難い話となるだろう。
(また壱花ちゃんを驚かせることになるんだろうな……)
壱花には嫌われたくないが、この方法しか思いつかない。不穏な芽をひとつ、壱花の心に植え付けることになる。その芽がどう育っていくのか、最大の懸念はそこだ。
今、抱きしめた壱花を、この手で守り大切にしたい。それだけは、ジェインの中で決まっている。
が、ポケットにあるスマホ。その中にはジェインが自身の親族とやり取りを何度も交わした、複雑な内容のLINEがある。懸念材料の塊だ。
(それでももう俺は壱花を手放すことはできない)
カバンの中に入っているのは婚姻届。自分のサインはすでに記入済み。
(受けてもらえるだろうか……)
ジェインは廊下を歩きながらカバンを握った手に、力を込めた。
✳︎
「はあぁ、壱花ちゃんちのこたつ最高〜」
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