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それは、家族のポートレート。いや、やはりイラストだ。
真ん中にはジェイン、レイラ。そしてその後ろには、ハリー、舞、そしてフレディ。
「マーガレットおばさんは写真を持ってなかったから、描いてもらえてないけど。ごめんね」
「いや、良い。上手に描けているな」
「褒めてくださってありがとうございます。すごく嬉しいです!」
その言葉を聞いて、壱花が両手を合わせて嬉しそうに喜んだ。
「だが、それより大切な人がひとり、足りないんじゃないか?」
フレディがそう言いながら、壱花を見た。その伯父の言葉に、皆が顔を見合わせて、そして。
「壱花のことですね。そう言ってくれて嬉しいです。ね? 壱花」
「は、はい!」
ジェインが横に立つ壱花の頬に、軽くキスをする。
「さあ、これでお墨付きをもらったよ!」
家族写真のイラストをフレディから受け取ると、「ここ! ここに壱花を描いてくれ! 俺の隣にね!」
ぱあっと明るい笑顔。今にもぴょんぴょんと飛び跳ねるがごとくに、壱花は喜んだ。
「はい! 仲間に入れてくださって、嬉しいです。ありがとうございます!」
「仲間じゃないよ、家族だよ」
「ファミリー! 良いですね」
壱花がにこっと笑う。
そんな壱花の肩を抱き寄せると、
「壱花はね、伯父さんに認めてもらうまで、自分の姿はここに描かないって、その一点張りだったんだ」
フレディが驚きの顔を見せた。
「そうなのか。見かけによらず、頑固なんだな」
「そうなんだよ。壱花はいつも強い。俺を引っ張り上げてくれるんだ、俺より一段も二段も上から、絶えず笑顔でにこにこしながらね!」
はははと皆で笑った。
✳︎
ここで話は終わらない。
ジェインはその後、イギリス滞在中に、今までは断りを入れていたマスコミの取材を、片っ端から受けた。
『若きチャレンジャー』
『世界に影響力のある人物』
『未来ある御曹司100人』
主に、伯父フレディと父ハリーの事業を継ぐ者としての紹介ではあったが、それでもジェインの興した企業『J-planning』の将来性などにも言及、もちろん辛口評価はあったものの、そのほとんどが好意的な記事となった。そして最後に必ずと言って良いほど、「ジェインさん、あなたの理想の女性は?」と問われ、「私の理想の女性? もちろん妻の壱花です。彼女がどれだけ可愛いか知っていますか? いやすみません、やっぱり彼女のことは誰にも見せたくないし、誰も知らない方がいいから、内緒にしておいてくれます?」といたずらっ子のように笑ってみせた。
だからと言って、壱花が秘密の存在というわけではない。
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