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「ねぇ和永。僕は君が何か秘密を抱えているんじゃないかと思う。魔法みたいな非現実的な秘密ではないけれど、それでも隠しておきたいような事だ。君は痩せ衰えてそして酷く怯えているように見えた。ああ、でも僕はそれを追求したりはしないよ。それは和永の秘密だからね。僕に話さないといけない義理はないんだ。」
道管さんはそう言って僕の頭をさらりと撫でた。
ああ、さっき目覚めた時に感じた頭を撫でる感触はこの手だったんだ、と思った。
「だからもう少しここに居るといい。体力が戻って、自分の脚で出ていける力が戻ったら外の世界に帰ればいい。」
「ここは…違う世界なんですか?」
「ははは。言葉のあやだよ。ここは魔法が使えるような異世界でも、鬼が出てくる地獄でもない。ちょっとした田舎町の古びた家でしかないよ。まぁ確かに庭だけは凄く広くて別世界みたいに見えるけどね。」
道管さんは笑うと僕の肩をポンポンと叩いた。
「さ、取り合えず鋭気を養う意味でも食事だ、食事。君には壊滅的に栄養が足りない。…え?」
道管さんが驚いたように僕を見る。
僕も『え?』と思って見つめ返すと、僕は無意識に離れて行く道管さんの手を掴んでいた。
どうしてそんな事をしたのか自分自身でも分からなかった。
それでも僕は彼の手の、それも指先を器用に掴んで僕の方へ引き寄せた。
「和永?どうしたんだい?」
「あ、あのっ。」
どうしたと聞かれても自分自身の不可解な行動に理由なんて付けられない。
僕は何と答えたらいいか必死で考えその結果言葉に窮しあたふたと身体を捩った。
「ぼ、僕ったら何を…。ど、どうしてか分からないんですけど。何だか咄嗟に手が出ちゃって。」
結局思ったままの事を伝える。それしか言い様がなかったからだ。そんな僕の顔を見て道管さんはフッと口先だけで笑った。
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