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道管さんの指は滑らかに動くようになった。それでも以前と同じ程の力は入らないらしい。
道管さんが僕にくれた「指先」は当時の彼にとって一番価値がなく、それでも捨てる事なんて出来ない物の象徴だったらしい。
自分の指なのに思い通りに動かない指先に彼は絶望し、悲観していた。
何も持っていないと泣く僕が、大事そうに自分の指先に触れる事で少しずつありのままの自分を受け入れる気持ちになったらしい。
『僕、何もしてないよ?』
『いいや、和永は俺に大切なものをくれたんだ。俺が”あげた”と思ってたのに、俺の方が”もらって”いたなんてな。』
『よく分からないよ。』
『ああ、分からなくてもいいさ。俺が分かってる。それに、お前の指先から全部流れていたからな、お前の思いは……。』
そう言って、何度も僕と指先を絡め、最後に僕の指にキスをしてくれた道管さんは、それ以来僕の指に触れる事が増えた。
道管さんと会う前の僕は何も持っていなくて、道管さんの”指先だけ”が全てだと思っていた。
でも今なら分かる。
暖かい居場所も、愛しいと思う眼差しも。
道管さんが僕にくれたものは指先”だけ”なんかじゃなくて。
全部、全部もらっていたんだって。
指先から流れてくる暖かな思いに僕も同じ思いを返す。
繋ぎ合う指先は僕たちだけが分かる言葉のように、同じ強さでこれからも繋がれていくだろう。
「さ、行こう。」
優しく引かれた手にもう一度力を込めて、僕は道管さんと一歩を踏み出した。
おわり。
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