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「君、大丈夫?」 朝から降っている雨を路地裏の小さな店の小さな雨除けの下で身体を縮こまらせて耐えていた僕に声を掛けてきた人がいた。大通りからは覗き込まないと見えないだろうに、彼は僕の下までわざわざやってきて僕を見下ろすように声を掛けた。 寒さと空腹から朦朧とした意識の中で見上げた彼は仕立ての良いトレンチコートを着た脚の長い人で、座り込んでいた僕から見たら巨人のように大きく見えた。 「ねぇ、本当に大丈夫かい?家はどこかな?」 彼の質問に僕は答えを持っていなかった。昨日から必死に歩いてきた。途中ヒッチハイクまがいの事をして、とにかく遠くへ行く事しか考えてなかった。 その結果、ここがどこか分からない。僕が帰る場所も今はない。 そう気付いたら彼に言える言葉はなかった。 「ああ、参ったな。いつもみたいに無視するべきだったか。」 ブツブツと呟いている声が聞こえる。ああ、この人にも迷惑をかけている。どうぞ僕に構わず行ってください、と言おうとして口を開いたけれど出てきたのはヒューヒューと喉の鳴る音だけだった。 「あっ、君っ。ねぇちょっと。あ~あ仕方ない、連れて帰るしかないか。」 そんな、どうぞこのままで。僕はこのままここに居ますから。 どうせこの店は開店する事はないでしょう。だって錆びついた雨どいが長い年月そのままだって物語っているから。 そう言いたいのに僕の瞼はもう閉じてしまいそうだった。目を瞑ったらもう二度と目が覚めないだろうと思えた。それぐらい僕の身体は疲れていてずるずると身体が沈みこんでいく。 彼はきっと呆れたような表情で至極迷惑そうに僕を見ているだろう。そう思ったら僕は自分が情けなくてしょうがなくなった。 「す…ま……せん。」 辛うじて出た声は掠れていたけれど、ピクッと彼の手が強張って僕の声が届いたのだと思った。 「ああ、謝る事なんてないから。さ、帰ろう。」 僕の身体を助け起こしてくれようとしている彼に迷惑をかけたく無くてほんの少し身体を捩って抵抗した。
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