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これ以上誰にも迷惑をかけたくなんかないんです。 僕が何処で何をしていても、心配してくれる人なんていないんです。 だから、このままここに置いて行って下さい。 ああ、でもそれでは寝ざめが悪いですよね。でもごめんなさい。立ち上がってどこかへ行く力はもう僕には残ってないんです。 ああ、ごめんなさい。 フッと消えていく意識と共に僕の身体がふわりと浮かんだような気がした。 「わっ、何だ、軽すぎだろっ。」 思った以上に近い位置から聞こえる声にやっぱり頭の中で「ごめんなさい」と謝りながら、完全に僕の意識は暗い闇に閉ざされたーーー。 ++ ++ 目が覚めたのはどこかで微かに何か鳴った音が聞こえたから。 それはピヨピヨとさえずる小鳥の音とは違うもっと軽やかで明るい音だった。 ピロンピロン、ポロンポロン たどたどしくも嬉し気で楽し気な音に僕は少しだけ幸せな気持ちで目を開けた。 飛び込んできたのは白い天井。真っ白で染み一つない綺麗な壁。そして、深いグリーンのカーテンの隙間から外の光が差し込んできていた。 ここはどこなんだろう。天国…じゃないね。白くて綺麗だけど僕の手の下にあるのは柔らかい寝具の手触りだし、太陽の温かさが部屋全体を温めてくれているみたいだ。 全く知らない場所なのに、僕の身体は緊張の糸が切れたみたいにくったりとなって起き上がる事も出来ない。本当ならここが何処なのか、誰かいるのか、色々知りたい事があったけれど、僕がしたのはさっきからポロポロと鳴る可愛い音に耳を傾けながら目を閉じる事だけだった。 この音…聞いた事がある。多分ピアノの音だ。誰が弾いているんだろう。何だか楽しそう。 昔、壁の外で聞こえた楽器の音によく似ていた。とはいっても僕がいた場所はこんなに立派な建物でもなかったし、隣の生活音だって丸聞こえのボロアパートだったけれど。
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