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目が覚めるのが怖かった。
だって目が覚めたらきっと全て夢に変わっているだろうから。
清潔で綺麗なベッドや温かい食事も。
優しく声を掛けてくれる彼も。
僕にとって特別になった『彼の指先』も。
全てが夢だとしたら、僕はいったいどうしたらいいのだろうか。
だから少しでも目を閉じていたかった。
そうしたらずっと幸せの中で過ごしていけると思えたから。
なのに、誰かが僕の頭を撫で、頬をちょんちょんと突っついてくる。
何度も何度も突っついてくるから僕はとうとう観念して目を開けた。
ああ、これで夢から醒めてしまうんだ。
そう嘆く言葉は目に飛び込んできた綺麗な真っ白な羽根とつぶらな瞳の小鳥の姿を見て消えてしまった。
「あ、あ…。」
横になったまま口ごもる僕の横に道管さんは立っていた。一瞬見えた瞳は冷たい色だったけれど、僕と視線を合わせると霧散してしまった。
あれ?見間違いかな?
「やぁ、よく寝ていたね。ああ、クレド、そこにいたら和永が怖がるじゃないか。」
「お…はようございます。……この鳥、クレドって言うんですか。」
「そうだよ。シロジュウシマツなんだ。可愛いだろう。」
どうやら僕の頬を突いていたのはこの小鳥だったみたいだ。鳥かごに入っていないのに飛び出して行く事はなくピィーピィーと可愛らしく鳴いている。首を時々傾げながら僕を見つめる姿がとても愛らしい。
「ははっ。クレドったら和永の事気に入ったみたいだね。誰彼かまわず懐くような鳥じゃないんだよ。」
そう言って道管さんは笑った。
僕はその言葉に嬉しくなった。僕という存在を無条件で受け入れてくれたように感じたからだ。
「今日は調子はどうだい?」
「はい。凄く良いと思います。」
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