桜の木の下で出会った女性は、天国への行き方がわからない幽霊さんでした

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 結論から言うと、やっぱり映画でもなかった。  わかってはいたけど、これも違った。  でも彼女は映画館につくなりテンションが爆上がりし、大満足した様子だった。  ちなみにどんな映画かと言うと、イケメン俳優と清楚なアイドルがイチャイチャするバカップル映画だった。 「ほんとにこれですか?」  と聞いたが、 「ほんとにこれです!」  と譲ってくれなかったため、渋々その映画を観た。  ほんと地獄かと思った。  カップルだらけの館内で男一人でイチャコラバカップル映画を見る苦行。  まわりからは「やだー、あの人ひとりで観てるわー。かわいそー」と言われてるみたいだった。  これで幽霊さんが成仏してくれたらまだよかったのだが、彼女は「はあー、面白かったですね」で終わってしまった。  思わずまた「くそう!」と叫んでしまった。 「面白くなかったですか?」 「い、いや、まあ面白くなくはなかったです……」 「ですよねー! はあー、もう最高でした。ヒロインのセリフがまた最高でー。『あなたとは死ぬ時までずーっと一緒にいたいわ』なんて。きゃー! 一度でいいから言ってみたいセリフです!」  なかなか物騒なことを言う幽霊さん。  彼女が言うとなんとなくホラーだ。  とりあえず目的が達成できなかったので再度尋ねてみた。 「……あの。他にやり残したことないですか?」  ぶっちゃけ、本当に未練を残して死んだのかわからなくなってくる。 「やり残したこと……。えーと、えーと。あ! 連載中のマンガの続きが気になります!」 「………」  もしかしたら一生このままかもしれない、とちょっと思った。
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